「パワハラされた」「セクハラされた」との告発により、一生懸命その事実を探ったけれどもその事実が出てこない。告発内容も人間関係の中で起きる当然のことばかり。本人は怒る、被疑者は困惑する、周りは気を遣う、窓口担当者は時間を使う。気づけば組織が疲弊する。
そんな「被害妄想型」モンスター社員の告発に対して、会社は、窓口担当者はどのように対応したら良いのでしょうか。
もちろん、先入観は危険です。あの人だからまた大げさだ、とおざなりな対応をしてしまうと、それがもし本当だったとしたら会社の重要な問題を見逃してしまうだけではなく、訴訟リスクも生んでしまいます。
ここでは、調査結果として告発内容がハラスメントに値しなかったというようなケースについて、その社員への対応について、解説します。
1.調査の内容はオープンに。そのうえで相手の怒りを受け止める。
まず、何を調査したのか、その結果として会社がどのように告発内容を受け止めたのか、ということはできるだけオープンにすべきです。隠し事を疑われることは、信頼関係を損ね、その先の対応を受け入れ難くなってしまうでしょう。ポイントは、相手の怒りを受け入れることです。人が怒りの感情を起こすには、必ず被疑者に対する期待があります。そのうえで事実があり、事実をどのように理解したかという認知があり、「期待を裏切られた」という認知が怒りという感情を生み出すのです。
怒りを受け止めるためには、被疑者に対する期待と、事実に対する認知を明確にすることが効果的です。人は自分が怒っている、理不尽であるという感情を正当なものだと受け入れられるだけで、その気持ちが納まることがあります。
相手の怒りを受け止めるためには、先入観を持たず、相手の話をじっくり聞く「傾聴」の姿勢が大事です。傾聴の姿勢は、コミュニケーションを円滑にします。実際に話を聞く方はうんざりすることもあるかもしれませんが、その時は自分のコミュニケーション能力を高める訓練をしていると思って、傾聴を心がけてください。
2.異動させることも念頭に、相手のキャリアを再考する。
それでも話が落ち着かない場合、会社全体でこの問題を考える必要があります。ハラスメントではなかったとしても、当事者はいつまで経ってもコミュニケーション不全となり、結果として組織が機能しないという問題に陥ります。考えられることとしては、高ストレスの状態であれば産業医への相談や、心療内科の治療を勧めることがあります。また、できることなら、異動により強制的に被疑者との関係性を切るのも方法です。
念頭に入れるべきことは、その社員のキャリアを尊重するということです。どんなアクションを起こすにせよ、その方の社会人として成長を促すための措置であることが大事です。
3.「コミュニケーションが難しい」で解雇は難しいと心得る。
「この人はコミュニケーションが難しいから解雇したい」というご相談をたまに受けることがあります。確かに就業規則には「他社員との協調性に欠ける」ことが解雇要件として挙げられているものをよく見かけます。しかし、コミュニケーションが難しい、というのは会社側からだけの意見かもしれません。この理由だけで解雇する、というのは無理があります。解雇権の濫用と取られても仕方ありません。
数回異動をさせる、コミュニケーション力向上のための研修を試みるなど、会社が「解雇を回避しようとしたか」という姿勢が、トラブルの際には問われます。また、どうしても会社から退場していただかざるを得ない場合でも、相手の今後のキャリアに配慮した結果であることの説明を尽くしてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。できるだけ相手の話を傾聴して、まずは怒りそのものを受け止めてあげてください。会社としては、その方のキャリアに配慮する措置を取りつつ、退場していただく場合でも説明を尽くして、トラブルにならない姿勢を貫くことが、結果的に会社を守ることに繋がります。
以上は原則的なお話になりますが、もちろん、このような問題は個々の状況によって大きく変わってきます。お困りであれば、労働基準監督署や社会保険労務士など、第三者へご相談することをお勧めいたします。