企業におけるパワハラ対策が法制化されることを受け、政府からは職場のパワーハラスメントに関わる該当事例、不該当事例が公開されています。パワハラについては、行為者と当該言動を受ける労働者間の意識の相違や個別具体的な状況の違い等により、指導との線引きが困難とされる例も珍しくありません。今回示された事例は限定列挙というわけではありませんが、現場における言動を検討する上での参考にしていけるのが理想的です。
パワハラの定義となる3要素とは?
職場におけるパワハラ事例を検討する以前に、まずはパワハラの大前提を確認しておきましょう。政府は、職場のパワーハラスメント防止対策に関する検討会報告書内で、下記の3要素を満たす言動をパワハラの概念としています。出典:厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」
上記の内、パワハラに該当するか否かの判断を難しくさせる要素は、「業務の適正な範囲を超えて行われること」「身体的もしくは精神的な苦痛、または就業環境を害する」の判断の基準でしょう。これらの点について、厚生労働省で開催された第20回労働政策審議会雇用環境・均等分科会において公表されたパワハラ防止指針素案に、具体的な事例が示されております。
ケース別 パワーハラスメント該当事例、不該当事例
ここでは、職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針素案に記載された事例のうち、特筆すべき項目に触れていくことにしましょう。隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
(該当すると考えられる例)
・ 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。
・ 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。
(該当しないと考えられる例)
・ 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施すること。
・ 処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させる前に、個室で必要な研修を受けさせること。
通常、問題視されやすい「個室での研修」については、一定の対象者、目的のために行うことはパワハラに該当しない事例とされています。
業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
(該当すると考えられる例)
・ 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。
・ 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。
(該当しないと考えられる例)
・ 経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせること。
・ 労働者の能力に応じて、業務内容や業務量を軽減すること。
また、「労働者の能力に応じて業務内容や業務量を軽減する」際には、労働者の能力不足についてその根拠を示した上で、労働者に向けた十分な説明をした上で理解を求め、「嫌がらせ」のためと捉えられないようにする必要があります。
「事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動」にも配慮を
今回の素案においては、雇用する労働者への言動のみならず、✓個人事業主、インターンシップを行っている者等の労働者以外の者に対する言動
についても必要な注意を払うよう配慮しなければならない旨が明記されています。併せて、
✓自社の労働者に対する顧客などからの迷惑行為
により、雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう雇用管理を講じる必要があることも示されています。ひと口に「パワハラ」といっても、事業主としてあらゆる観点からの検討・対応が求められることは言うまでもありません。
参考:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」
まとめ
パワハラ対策として、雇用する労働者はもちろん、取引先等との間で交わされる言動についても今一度確認し、方針を考えていきましょう。自社内のみでの検討が困難な場合には、社会保険労務士等労務管理の専門家の意見も踏まえた取り組みが得策です。今後予定されるパワハラ対策義務の法制化に備え、確実に対応できるよう準備を進めましょう。
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