働き手不足に対応すべくシニア人材の活用が幅広く目指される昨今、高年齢労働者に関わる雇用保険制度が変わろうとしています。以前の記事では、高年齢雇用継続給付金の見直しが予定されている旨をご紹介しましたが、今号では65歳以上複数就業者の雇用保険特例加入について解説しましょう。
65歳以上の兼業・副業者に対する雇用保険適用が拡大されます
第144回労働政策審議会職業安定分科会にて諮問された雇用保険法改正案のうち、「65歳以上複数就業者の雇用保険特例加入」については、2022年4月より開始される予定です。下記に、法律案要綱の該当部分を抜粋します。
次に掲げる要件のいずれにも該当する者が、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に申し出た場合には、高年齢被保険者となることができるものとすること。
(1) 一の事業主における一週間の所定労働時間が20時間未満であること。
(2) 二以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者であること。
(3) 二の事業主の適用事業(申出を行う労働者の一週間の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間数(5時間とする予定)以上であるものに限る。)における一週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること。
・事業主は、労働者がこの申出をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないものとする
出典:厚生労働省「第144回労働政策審議会職業安定分科会資料_資料No.1_ 雇用保険法等の一部を改正する法律案要綱」
高年齢労働者の雇用保険適用については、既に2017年1月1日より、65歳以上の労働者であっても下記の雇用保険被保険者要件を満たす限り対象とされています。
雇用保険の被保険者要件
・ 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
・ 31⽇以上の雇用見込みがあること
この点、2022年4月以降は、2以上の雇用保険適用事業所で勤務する65歳以上の労働者で、一つの事業所での勤務では要件を満たすことができない場合でも、2以上の事業所合算で「1週間の所定労働時間が20時間以上」となれば被保険者となれるようになります。
雇用保険適用はあくまで「労働者の申し出」による
ただし、今号でご紹介する「65歳以上複数就業者の雇用保険特例加入」は、あくまで「労働者からの申し出」により適用されるものです。要件に該当する高年齢労働者であれば、自動的に全員雇用保険に加入となるわけではありません。もちろん、労働者側から希望があった場合には、事業主はその申し出を不当に拒んだり、申し出をした労働者に不利益な取り扱いをしたりすることは認められません。
社会保険ではすでに「二以上事業所勤務」の場合の手続きが浸透
兼業・副業者の労災認定や補償が見直される方向にある中(※)、複数就業者の雇用保険加入についても今後は高年齢者に限定されず、幅広く適用されていくものと見込まれます。※参考:SHARES LAB「兼業・副業者の労災認定は「本業+副業」での判断が原則となる方向性」
事業所における懸念事項は「雇用保険料負担」や「手続き」に関するものとなるでしょうが、実務上の取扱い等の詳細は追って決定・公開されることになります。SHARES LABでも、今後、続報としてご紹介する予定です。
参考までに、社会保険ではすでに「二以上事業所勤務」の被保険者に関わる取り扱いが制度化されていますので、まずは確認されておくと良いでしょう。
参考: 日本年金機構「被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったとき」
日本年金機構「70歳以上の従業員が複数の適用事業所に使用されることになったとき」