コロナウィルスの感染拡大の余波で、企業の内定を取り消す動きが出てきています。会社としては予測できなかった事態として、内定者に理解を求めたいところですが、内定を取っていた方としては、再度就職活動から始めなければならず、その時間や機会の損失は測り知れません。
それだけ、内定取り消しとはインパクトが大きく、慎重に行われるべきことであります。ここでは、会社・内定者の両方の立場から、内定取り消しについて認識しておきたいことを解説いたします。
1.「内定」は労働契約とほぼ同義である。
まず、「内定」を定義します。内定は正確には「始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれます。「始期付」とはいつから仕事を開始する、ということです。新卒なら4月1日が一般的でしょう。
「解約権留保付」とは、解約する可能性があることを示唆しています。では、どんな時なら解約できるのでしょうか。過去の判例では「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できるものに限られる」(大日本印刷事件 昭54.7.20)とされています。
客観的に合理的で社会通念上相当、どこかで聞いたことはありませんか?この文言は労働契約法における解雇権濫用法理と呼ばれるものです。最後に「労働契約」とあるように、内定の取り消しができるのは「社員の解雇に相当するような状況」であることが求められるのです。
例えば経歴の詐称、犯罪などが挙げられます。どちらにせよ、簡単に取り消せるものではない、ということはおわかりいただけると思います。
2.「内定」と「内々定」の違いとは?
では、何をしたら「内定」になるのでしょうか。一般的に内定の際には内定通知を行います。内定は労働契約ですので、単純に採用する旨だけではなく、労働の開始日、就業場所などが明示されます。かつ、それを内定者が承諾した旨を交わします。これにより双方がその場所で働く約束が成立され、内定が決まります。内定を交わした後は、前項に記載した通り、会社側が取り消すには解雇相応の理由が必要です。一方、内定者側は、職業選択の自由があるので、取り消すことはマナー違反ですが、法的には可能ということになります。
一方、「内々定」という言葉があります。内定前に「採用する予定だよ」と伝えることで、これは口約束に近いです。こちらは会社、内定者双方とも、理屈で言えば法的に取り消すことは可能です。
ただし、一度交わした内々定を取り消すというのは、された方のダメージが大きいものがあります。社会的に、また心情的に問題であることは言うまでもありません。
3.会社側から見る内定通知の出し方とは?
内定通知を出すなら必ず雇用する、という覚悟を持つということが大前提です。内定取り消しは最後の手段と心得てください。 ただし、いざという時のために解約権を行使する理由を内定通知に明記しておくべきでしょう。新卒であれば、卒業できなかった場合の扱いを入れておきたいです。また、天災など予測不能なことが起きた場合のことも入れておきましょう。 今回のコロナウィルスの感染拡大が天災と判断されるかどうかは、個別の判断になりますが、少なくとも会社として、いざという時のカードは多いに越したことはありません。
なお、新卒の内定取り消しを行う場合、ハローワークへ通知する必要があります。
また、今回のコロナの影響で大きな仕事のキャンセルが見込まれるなど、先行きが不透明なケースもあるかと思います。最悪の場合、人を雇う余裕がなくなることも考えられます。
その場合、「内々定」に留めておき、かつ状況を正直に伝えて、内定者に受諾の判断を委ねるのも仕方ないでしょう。採用市場にいる優秀な人材は繋ぎとめておきたい、という気持ちもわかります。しかし、期待ばかりさせておいて後でトラブルになることを考えれば、内定の前から正直に誠実に伝える方が、むしろ入った後のロイヤリティアップにつながるのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか。内定は「始期付解約権留保付労働契約」であり、労働契約の一種です。つまり、会社都合による取消には解雇相当の理由が必要になります。
内々定はいわば口約束に近いですが、どちらにせよこれを取り消すことはマナー違反であり、双方とも避けるべきと心得てください。
会社としては、内定や内々定の取り消しは最後の手段として、誠実に内定者と接するようにお願いをいたします。
内定取り消しについて悩む方がいらっしゃれば、会社側、内定者側問わず、労働基準監督署や社会保険労務士など第三者にご相談することをお勧めいたします。