「非正規への退職金不支給は不合理とはいえない」 同一労働同一賃金・均衡待遇の4要素から検討
労務


前号では、「アルバイト職員への賞与不支給は不合理とはいえない」とした大阪医科薬科大学事件に係る最高裁判決を解説しました。今号では、契約社員への退職金不支給について、同様に「不合理とはいえない」とされたメトロコマース事件の最高裁判決について検討しましょう。

ポイントは「均衡待遇の4要件」、そして「退職金の目的」です。

※関連記事:『「非正規への賞与不支給」 最高裁判決を受け、企業がおさえるべき同一労働同一賃金・均衡待遇の4要素』

この記事の目次

正規・非正規の待遇差を検討するための視点、同一労働同一賃金とは?

ひと昔前までは、「社員だから」「アルバイトだから」で何となく暗黙の了解となっていた待遇差も、同一労働同一賃金の適用が法制化された今日では、適切な判断基準を元にその合理性が検討されることになりました。

同一労働同一賃金の考え方については前号でも解説した通りですが、「均等待遇(同じ労働に対しては同じ賃金・待遇を設けようという考え方)」と「均衡待遇(労働に違いがあれば、違いに応じた賃金を支払おうという考え方)」に基づきます。大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件の最高裁判決文には、正規・非正規の待遇差がともに均衡待遇の4要素である「業務内容」「責任の程度」「業務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」に則ったものかどうかの検討が記されています。

「退職金不支給が不合理とはいえない」としたメトロコマース事件の事例検証

メトロコマース事件とは、売店業務に従事する正社員に退職金を支給する一方で、同様に売店業務に従事する契約社員に対してこれを支給しないという労働条件は不合理だとして提起された訴訟です。

高裁では、長年の功労に係る報酬として、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の少なくとも4分の1は支給するべきである旨の判決が下されていましたが、最高裁では一転、「不支給は必ずしも不合理とは言えない」としました。判決文より、最高裁判決に至った判断要素を「均衡待遇の4要素」「退職金の目的」に照らし合わせて抜粋します。

同一労働同一賃金 均衡待遇の4要素

○業務の内容 及び 責任の程度
・正社員・・・販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を 行う代務業務を担当していたほか、複数の売店を統括し、売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理。商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあった

・契約社員・・売店業務に専従していた

○職務・配置の変更範囲
・正社員・・・業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり。正当な理由なく。これを拒否することはできなかった

・契約社員・・業務の場所の変更を命ぜられることはあっても業務の内容に変更はなく、配置転換等を命ぜられることはなかった

○その他の事情
・売店業務に従事する正社員は、その他の正社員と同じ就業規則等により同一の労働条件の適用を受けていたが、職務の内容及び変更の範囲を異にしていた。この点については再編成がされてきた経緯や、その職務経験等に照らし、賃金水準を変更したり、他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があったと解される

・試験による契約社員から正社員などへの登用制度があり、登用実績もあった

退職金の目的

職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや、継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたもの

参考:裁判所「令和元年(受)第1190号,第1191号 損害賠償等請求事件 令和2年10月13日 第三小法廷判決」

同一労働同一賃金対応に伴い見つめ直すべき、非正規労働者への処遇改善

メトロコマース事件では、「均衡待遇の4要素」「退職金の目的」から、契約社員への退職金不支給は必ずしも不合理とはいえないという最高裁判決が下されました。しかしながら、この判決は、安易に「非正規雇用であれば退職金を支払わなくても良い」ことを結論づけるものではありません。

有期雇用であっても実態として長期に渡り雇用されていた、有期雇用労働者の職務内容が実質的に正社員と異ならない等の場合には、退職金不支給が不合理とされることもあります。加えて、有期雇用労働者に正社員登用への門戸が開かれているという要素も、退職金不支給の合理性を高めていると見受けられます。企業においては、勤務年数や職務に応じた処遇、さらに将来的に非正規からのキャリアアップを目指せるような制度設計が求められます。

まとめ

前号の大阪医科薬科大学事件同様、高裁判決から一転、最高裁判決では正規・非正規間の待遇差について不合理とは言えないとされたメトロコマース事件。一方で、両事件の最高裁判決の2日後に下された日本郵便事件では、契約社員に支給されない一部手当について正社員との不合理な格差が認められるとされた最高裁判決が下されています。次号では日本郵政事件の事例に触れ、同一労働同一賃金に関わる理解を深めていきましょう。

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