「退職は3ヶ月前に申し入れること」その規定は有効か。退職日と退職申し入れ日の期間について考える。
労務


退職を申し出るのは退職日の〇日前とルール付けをしている会社は多いでしょう。では、その根拠はどこから来るのでしょうか。また、現実的にどこまで拘束力があるのでしょうか。

会社側から見れば、突然の退職で仕事に穴が開くのを防ぎたく、労働者側から見れば、次の職場のスケジュールを優先させたいという思いがあります。会社のリスクと労働者のキャリアが相反し、トラブルになりやすい問題と言えるでしょう。

ここでは、雇用期間の無い雇用契約であることを前提に、退職日と退職を申し出る日の期間に関する問題について、解説をいたします。

この記事の目次

1、30日前に退職を申し出る法的根拠は無い。退職の合意が無いまま2週間を過ぎると退職できてしまう。

一般的によく見るのは、退職日の30日前(1ヶ月前)に退職を申し出ること、という雇用契約書や就業規則です。

しかし、労働基準法をはじめ様々な労働各法の中で、この「30日前」という根拠は、実はありません。
労働基準法では労働者を解雇する場合に、30日前の解雇予告または30日分の平均賃金の支給を義務付けています。この30日は、労働者の生活を守るために必要な期間なわけですが、同時に引継ぎや仕事の整理の期間とみなすこともできます。

個人的な推測にすぎませんが、ここから「30日あれば、仕事の整理や引継ぎはできるだろう」という一般的な認識が広がったと思われます。つまり、30日前に退職を申し出る、というのは慣例にすぎないのです。

実は、民法第627条第1項には「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」とされています。民法上は雇用契約の解約を申し入れた後、2週間でその雇用契約を終了できることになっています(逆に言えば、2週間は働いてもらうという指示は可能です)。

このことは、労働者からの退職の申し入れを事業主が拒んだ場合、退職の合意が無いまま2週間が経てば労働者は退職できてしまうことを意味します。退職の申し入れが入ったら速やかに退職そのものは合意し、現実的な退職日の落としどころを探るというのが、事業主の態度として求められることになります。

2、就業規則による退職の制限は憲法にも反する

では、就業規則などで「退職の場合、3ヶ月前に申し出ること」というように、会社の独自のルールとしてその期間を設定することは可能なのでしょうか。会社の立場としては、退職されるのは仕方ないとしても、穴埋めの採用や顧客対応を考えればその期間に余裕があった方が良いに決まっています。

しかし、労働者には憲法で保障された「職業選択の自由」があります。あまりに長い期間、今の会社での仕事を強制するのは、この職業選択の自由に反していると取られてかねません。

慣例としては、退職の予告期間について1ヶ月より長い期間を設定すると、職業選択の自由の観点から無効と判断される可能性が高くなります。
会社のルールとして退職を申し出る期間を長く取ることそのものは、会社の秩序維持の観点から咎められるものではありません。しかし、実際にそれより短い期間で退職を申し出られた場合に、会社が強硬にこのルールを持ち出すのは控えた方が良いでしょう。

3、退職時に有給消化をさせない就業規則は有効か?

もう一つ問題になるのは、退職日まで現実の就労を求め、事実上、退職時の有給休暇の消化を認めない規定です。これもいろいろな会社の就業規則に見られる内容です。

ポイントとしてはこの退職日までに引継ぎや業務整理がされているかどうかです。判例としては、有給消化後の退職を主張した労働者に対して、引継ぎのため有給休暇の時季変更権を主張した会社があり、会社側が勝訴したことがあります。就業規則上、退職日直前に現実の就労を求めるのであれば、そこで引継ぎを確実に行う旨を記載しておくべきと考えます。

逆に、既に引継ぎをしている、あるいは引継ぎするような業務が無い場合は、上記の就業規則があったとしても、時季変更権を主張することは難しいでしょう。ましてや単純なシフトの穴埋めのために有給を消化させない、ということは就業規則の有無にかかわらずできないと心得てください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
いざ退職を申し出られると、事業主が退職そのものを拒むことも、事業主側が一方的に有利になるような退職日を設定することもできません。就業規則や雇用契約書の記載があったとしても、民法や憲法がそれを許しません。ましてや、次の社員が見つかるまで退職を制限したり、急な退職に対する損害賠償を主張したりするなど以ての外です。

もちろん、退職日を一方的に労働者が決めるとしたら、それはそれで問題があります。実際にお互いが妥協できる退職日を話し合う、というのがあるべき姿ということになります。

結局、労働者にも会社にも負担にならない退職日を設定するということは、労使間の最後のビジネスマナーなのです。
突然の退職の申し入れに困ったら、ぜひ社会保険労務士にご相談ください。

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