会社員である以上、付き物であるのが「異動」です。勤務場所の変更を伴うケース、あるいは業務内容の変更を伴うケースもあるでしょう。
しかし社員のすべてが、その辞令を好意的に受け取るとも限りません。様々な理由により、それを拒否してくる可能性もあります。
ここでは事業主の観点から、異動や業務内容の変更を拒否された場合の対応について、解説をいたします。
1、就業規則や雇用契約書で異動の有無の明確化をしておくべき。
まず原則として、雇用契約である以上、従業員は事業主の命令には従う義務があります。だからこそ、従業員は対価を受け取れるということになります。異動や業務変更はその命令の一つであり、それを拒否することはできません。ただし、雇用契約が勤務地や職務を限定するものであったりする場合は、これを拒否できることになります。
そのため、事業主として異動や業務変更を求める可能性のある場合(一般的な正社員であれば、ほとんどのケースであてはまると思われます)、就業規則または雇用契約書の中で、「異動の可能性がある」「業務内容の変更の可能性がある」「その場合、従業員として拒否できない」という文言を盛り込んでおくことをお薦めします。
これが無いと、入社時の約束の中で言った言わないが発生し、事業主の命令を実行することが困難になる可能性があるのです。
2、異動を拒否されても仕方ないケースもある。
とは言っても、異動を拒否されても仕方ないケースがあります。1つ目は、勤務地の変更で通勤時間が長くなるケースです。判例では、概ね2時間が通勤時間の限界と見て良いでしょう。
2つ目は、育児・介護など家族の事情がある場合です。これは程度があって、一概に「こういうケースなら異動させてOK」とラインを引けるものではありません。感覚としては、「子どもを転校させたくない」くらいだと異動拒否の理由にはなりませんが、「保育園の変更を伴い、異動先に保育園の空きが無い」というように解決策が無い場合は、会社はその異動を見直す必要があるかもしれません。
このケースは労使双方がその異動の必要性と家族の事情を話し合い、双方が納得できる状況になるように協力する、という姿勢が求められます。
最後に、嫌がらせや退職させることを目的に異動を命じるケースです。トラブルになった場合は、これまでの異動の実績や、異動命令以外の当該者への行動などから判断されることになります。当然のことながら、当人を追い込む目的での異動命令は絶対に行ってはいけません。
3、異動を拒否するなら自己都合退職が原則。退職勧奨扱いにすることも。
異動命令を拒否された場合、まずは話し合いをしてください。そのうえで、異動がどうしても受け入れられず、かつ異動しないとその方の行き場が無いということになれば、自己都合で退職をしていただくということになります。異動が気に入らない、という理由で退職をする方を会社都合にする必要はありません。一方で、異動を拒否するのに相応の理由がある場合は、やはり話し合いが求められます。場合によっては退職勧奨にすることで、失業時の基本手当を有利に受け取れるように配慮をする、という妥協点もあります。
どちらにせよ、異動はご本人の家族やライフプランに影響する話です。異動先で気持ちよく働いてもらうためにも、異動の必要性や本人への期待を十分に伝えることに努めてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。異動や業務内容変更は事業主命令であり、原則的に契約や就業規則に特段の規定が無い限り、従業員は拒否することはできません。とは言っても、本人の今後の仕事を考えれば、その異動の必要性を十分に説明してください。個人的な話ですが、私も会社員時代に異動の経験があります。その経験が社会人として十分にプラスになったと考えています。ご本人の成長のためにも、必要な異動は信念をもってあたっていただきたいと思います。
異動や業務変更における社員とのトラブルや不安があれば、お近くの労働基準監督署や社会保険労務士にご相談ください。