育児休業中の就労は原則認められませんが、実態として休業中の従業員に対し会社が就労を打診するケースは少なくありません。こうした実情に鑑み、制度上は、例外的に「労使の話し合いにより、子の養育をする必要がない期間に限り、一時的・臨時的にその事業主の下で就労できる」としており、このたび厚生労働省から「一時的・臨時的な就労」に関わる具体事例が示されました。
- 育児休業中に認められる「一時的・臨時的な就労」事例
- 「恒常的・定期的な就労」「会社からの一方的な指示による就労」は認められません
- 育児休業期間中に賃金が支払われた場合、育児休業給付金の減額支給ルール
- まとめ
育児休業中に認められる「一時的・臨時的な就労」事例
○ 育児休業開始当初は、労働者Aは育児休業期間中に出勤することを予定していなかったが、自社製品の需要が予期せず増大し、一定の習熟が必要な作業の業務量が急激に増加したため、スキル習得のための数日間の研修を行う講師業務を事業主が依頼し、Aが合意した場合○ 労働者Bの育児休業期間中に、限られた少数の社員にしか情報が共有されていない機密性の高い事項に関わるトラブルが発生したため、当該事項の詳細や経緯を知っているBに、一時的なトラブル対応を事業主が依頼し、Bが合意した場合
○ 労働者Cの育児休業期間中に、トラブルにより会社の基幹システムが停止し、早急に復旧させる必要があるため、経験豊富なシステムエンジニアであるCに対して、修復作業を事業主が依頼し、Cが合意した場合
○ 災害が発生したため、災害の初動対応に経験豊富な労働者Dに、臨時的な災害の初動対応業務を事業主が依頼し、Dが合意した場合
○ 労働者Eは育児休業の開始当初は全日を休業していたが、一定期間の療養が必要な感染症がまん延したことにより生じた従業員の大幅な欠員状態が短期的に発生し、一時的にEが得意とする業務を遂行できる者がいなくなったため、テレワークによる一時的な就労を事業主が依頼し、Eが合意した場合
出典:厚生労働省「育児休業中の就労について」
「恒常的・定期的な就労」「会社からの一方的な指示による就労」は認められません
育休中の就労について重要なポイントは、上記の太字部分です。「臨時的」「一時的」「短期的」をキーワードに、イレギュラーな業務対応の必要が生じた際にのみ可能となります。よって、育児休業の開始時点から予定しているような恒常的・定期的な就労は、たとえ短時間、週1日程度であっても認められないので注意しなければなりません。また、赤字で示した通り、必ず「事業主が依頼し、労働者が合意する」という流れが必要です。育休取得中の労働者に対し、会社が業務命令として一方的に勤務を指示することはできません。
育児休業期間中に賃金が支払われた場合、育児休業給付金の減額支給ルール
「育児休業期間中に働くと育児休業給付金がもらえなくなる」と考えられがちですが、支給・不支給や支給額にはルールがあります。 まず、育休中に就労したとしても、1支給単位期間において、就労している日数が10日(10日を超える場合は、就労している時間が80時間)以下であれば育児休業給付金の支給対象となります。そして、育児休業給付金の額は、育休中の就労で支払われた賃金額に応じて調整されます。以下をご参照いただくと、原則的な育児休業給付金額と、育児休業期間中に働いて賃金を得た場合の育児休業給付金の支給ルールが分かりやすいかと思います。
出典:厚生労働省「育児休業期間中に就業した場合の育児休業給付金の支給について」
まとめ
今号では、前号の「男性版産休制度の新設」に引き続き、育休関連として「育休中の就労」を解説しました。育休取得率向上に向けて、着実に制度が整えられていると感じます。中小企業においては、「人手不足」が労働者の育休取得の障壁になっているケースも少なくありません。今号で解説した就労ルールや育児休業給付金との兼ね合いを正しく理解し、いざという時には育休中の労働者に対しても適切に業務依頼を行えることを心に留めておくと安心かと思います。