コロナ禍でご相談を受ける内容の一つが固定残業代の廃止です。これまで固定残業制の中で契約をしていたが、想定より残業時間が減ってしまったとなれば、事業主としては余計な残業代を支給することは控えたい、と思うのも無理はないでしょう。
しかし、従業員から見れば、それは手取りの減少を意味します。生活に直接影響する話であり、簡単に受け入れられるとも思いません。
ここでは、残業が減ったことにより、事業主が固定残業代を廃止することが可能なのかどうか、解説をいたします。
1、理屈としては、固定残業を廃止することは可能。しかし、道義的には大きな問題が残る。
本当に残業時間が減っているのであれば、固定残業を縮小、または廃止して通常の残業代の計算方法に切り替えることについて、 それがただちに違法ということはありません。事業主としては実態に近い計算方法に切り替えたということであり、また労働時間を縮小するという健康管理の観点で、それは望まれるべき方針であるからです。とは言っても、その固定残業そのものが大きければ大きいほど、生活に直接影響します。それを一方的に廃止することは、事業主と従業員の関係を壊すことになりかねません。特に採用段階で固定残業制度を基にした想定年収を提示しているケースなどあれば、いわば約束を破ったと思われても仕方ないでしょう。
固定残業を一方的に廃止するというのは、道義的に大きな問題があると言わざるを得ません。
2、固定残業制を廃止することが難しいケースとは。
例えば、固定残業時間や金額を従業員に明記していない場合は、それを廃止することはさらに困難になります。なぜなら、いざ従業員側が不利益変更を申し立ててトラブルになった場合、そもそも固定残業制が認められない可能性があるからです。例えば、残業20時間分込みで〇〇円という表示の仕方は、その基本給部分が明確になっていません。よって、固定残業をやめた場合の基本給はいくらが適正なのか、把握できないはずなのです。
そもそも、固定残業制は、その残業時間を超えた場合は差額を支給する必要があります。基本給部分の明示ができていないで、どうやってその差額計算ができるのでしょうか。自社の固定残業制度や契約にこのような不備が無いか、今一度見直してください。
3、固定残業制の廃止のために事業主が行うべきこと
まず、現在の手取りを確保する努力を行いましょう。例えば、インセンティブ制度を代わりに導入し、通常通り働く限りは同程度の収入を確保できる設計にするのも一つの方法です。基本給のアップなど、従業員側に歩み寄る姿勢は必要でしょう。また、固定残業の割合が大きい場合は、1~3年のスパンで徐々に少なくしていくなど段階的な削減を行うことも考えられます。生活への影響を限定的にする努力や姿勢を見せることが求められます。
そして、従業員との話し合いを必ず行ってください。具体的には、給与制度の変更について労働組合や労働者代表と交渉の場を持ちます。少なくとも従業員の半数以上の同意を取った形にしておきましょう。
合意内容を基に従業員に対して説明会を行い、説明を聞いた旨の署名をもらっておきます。固定残業制の廃止は、それそのものが違法とは言えないとはいえ、状況によっては不利益変更と捉えられかねません。この制度変更の説明や不利益回避の努力を客観的にわかるようにしておくことが、その後のトラブルを防ぐという観点で大事なのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。固定残業制の廃止は、必ずしも違法とは言えませんが、道義的に大きな禍根を残しかねません。手取り減少の回避や、従業員との話し合いを行うなどの努力を行ってください。
労働者は給与の減少に敏感に反応します。固定残業制廃止となると、万円単位になるケースがほとんどと思われますので、その影響度合いはなおさら大きいと言えるでしょう。事業主としては慎重な対応が求められていることに間違いありません。
固定残業制の廃止で迷ったら、社会保険労務士にぜひご相談ください。
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