資格取得の費用をせっかく会社が負担したのに、資格取得後すぐに退職してしまった!その費用、取り戻せるか。
労務


先日、社内公募制度で海外留学して、帰国後すぐに退職した労働者に対して、会社側が留学費用の返還を求めた裁判があり、会社側が勝訴しました。労働者の返還額が3000万円と高額だったということで、ニュースでも注目されました。

これほど高額ではなくても、例えば資格取得について会社側がその費用を負担しているケースというのは、少なくありません。ところが、資格取得後にすぐに退職されたら、その費用は事業主から見ると払い損になってしまいます。

ここでは、資格取得や技術獲得の費用を会社負担で取得しながらも、すぐに退職された場合の考え方について、解説をいたします。

この記事の目次

1、「悪いことしたら〇〇円の罰金」は通用しない

まず、原則を押さえておきましょう。
会社は労働者に対して、未来の出来事について事前に支払わせる金額を決めておくことはできません。つまり「遅刻したら罰金1万円」というルールは通用しないことになります。これを賠償予定の禁止と言います。なお、実際に起きた過去の出来事に相応の賠償金額を支払わせることは可能です。

冒頭の裁判で労働者側はこの賠償予定の禁止を訴えました。つまり、「退職したら、という未来の仮定に対して、留学費用返還という実質的な賠償金の支払いを約束させる契約は無効だ」と反論をしたわけです。

しかし、ご存知の通り、このケースでは会社側の主張が認められています。なぜ、賠償予定の禁止の原則は通用しなかったのでしょうか。

2、労働とは切り離して、費用を事業主と労働者で貸し借りできる。

実は会社側と労働者側との間で、先に「帰国後5年以内に退職をした場合、留学費用を労働者は会社に返還する」という契約書が結ばれていました。つまり、会社から労働者に渡した留学費用はあくまで貸与である、ただし5年間会社に勤めたら返還を免除してあげますよ、とも読み取れます。

このように、事業主と労働者の間で、いったん金銭等の貸し借りを行った後、条件によってその返還を免除する契約を免除特約付金銭消費貸借契約と言います。この裁判では、この契約となっていると判断されています。

この契約は労働とは切り離されて考えられます。金銭の返還義務が退職を妨げているわけでもなく、ひいては労働者の自由を奪うものでもありません。労働と関係無いところで金銭の返還を求めることは賠償には当たらないのです。

3、退職は止められない。離職防止策と離職しないためのインセンティブを効果的に使おう

免除特約付金銭消費貸借契約にするためには、
・その資格等の取得(金銭の貸与)が、労働者の自由意志に基づいていること。
・金銭の返還に関して、合理的かつ明確に規定されていること。
が求められます。

とは言っても、退職そのものを制限することはできません。金銭の返還を求めるということは、退職抑止策の一つにすぎない、とご理解ください。

また、実際に返還するしないでトラブルになってしまうと、その対応工数は割に合うものとも思えません。事業主としては資格取得などの費用を取り戻すことを考えるよりも、資格取得後に退職しないような対策を取る方が賢明と言えます。資格取得後、数年働いた場合に報奨金を与える制度にすることも一つの方法です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。原則的には、あらかじめ支払う予定金額を定めることは、賠償予定の禁止にあたります。しかし、事前に準備をしておくことで、免除特約付金銭消費貸借契約による金銭の返還を求めることは可能になります。

せっかく費用をかけて育てた従業員に退職されてしまうのは、事業主にとっては辛いことです。多額な費用をかけていたとしたら、なおさらでしょう。せめて退職となった時でも、お互いわだかまりを残さないようにするためには、事前の準備が大事なのです。

従業員の資格取得などの費用について困ったら、お気軽に社会保険労務士にご相談ください。

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