少子高齢化の深刻化を背景に、慢性的に人手不足に悩む企業が増加しつつあります。現場においては個々に様々な人材確保対策が講じられているところではありますが、離職防止の観点で盲点となりがちなのが「更年期を迎えた労働者支援」です。
確かに、労務管理の現場においては、産前産後や育児中の労働者に対するサポートには注力しつつも、年齢を重ねた労働者への支援に関しては手薄なケースが目立ちます。御社ではいかがでしょうか?
誰にでも訪れる更年期。男女とも雇用劣化を実感
更年期とは、50歳前後の時期に訪れる心身の変化のこと。一般的には閉経に伴うホルモンバランスの変化による症状が連想されるために、「女性特有のもの」と考えられがちですが、最近では男性の更年期症状も問題視されるようになっています。50歳前後の働き盛りの世代であれば、個人差こそあれ、皆、更年期に悩んでいると考えて良いでしょう。
労働政策研究・研修機構(JILPT)がNHK等と共同で行った「更年期と仕事に関する調査2021」によると、40~59歳の男女労働者のうち、男性の20.5%、女性の15.3%が、更年期症状が原因で「雇用劣化」が起きたと自ら認識していると回答。雇用劣化とは、降格や昇進辞退、非正規化、労働時間や業務量の減少、退職等を指しますが、女性については更年期に伴い「仕事を辞めた」という選択が最も多くなっています。
求められる支援は「休みやすい環境の提供」「体調不良時の配慮」
人手不足時代において、働き盛りの世代の離職は、企業にとっての大きな損失となり得ます。現場においては、更年期離職を防ぐべく、必要な支援策を前向きに検討しなければなりません。同調査結果では、「職場や国の支援制度に関する希望」として、男女共に80%以上が何らかの支援が必要と感じていることを示すと共に、以下の通り、希望する支援内容をまとめています。
男女ともに特に多いのが「更年期症状で休んだ際の収入保証」であり、「休暇制度の新設・拡充」を求める声も目立ちます。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「更年期と仕事に関する調査2021」(NHKとの共同企画)」
更年期支援の一環として、導入を検討したい「積立休暇制度」
前述の調査結果を受け、企業としては現実的に無理がなく、実現可能な範囲で支援策を検討していく必要があります。「そうは言っても、新たに休暇制度を設けたり、特別な収入保証を考えたりするのは難しい」という場合には、既存の年次有給休暇制度を拡充させる形での対応も視野に入ってくるかと思います。いわゆる「積立休暇制度」は、通常2年で消滅時効を迎える年次有給休暇の未取得分を、消滅させるのではなく積み立てることで、必要な時に活用できるようにするもので、更年期対策に限らず、すでに社内制度として導入している企業もあるようです。制度導入に先立ち、休暇を取得しやすい職場風土の醸造や制度設計(積立日数の上限や使用目的、1回あたりの利用限度日数、申請フロー等)は不可欠ですが、労働者に対してこれまで以上に働きやすい環境の提供が可能となるでしょう。
まとめ
労働者に長く安心して働いてもらうためには、ライフステージの変化に応じて柔軟に適用できる支援策の提供が不可欠ですが、今号で解説した更年期離職防止策もその一環となります。「ウチみたいな小さな会社では、大したことはできないよ」とおっしゃる事業主も少なくありませんが、肝心なのは「労働者を思いやる心」です。社労士として幅広く労働者の皆さんとお話しする中で、企業に求められているのは「完璧な制度設計」よりも「職場において労働者を支える姿勢・配慮がうかがえること」なのかなと感じることが多々あります。ちょっとした支援でも、現場で無理なく取り組めることに目を向け、働く人に対して積極的に会社の想いを伝えていくことが、効果的な離職防止策となります。