長時間労働については、その危険性の認知度は高まったものの、まだそれが十分とは言えません。先日、居酒屋チェーンの調理師で長時間労働により勤務中に脳内出血し、後遺症が残った労働者について、労災認定されたというニュースがありました。
このニュースのポイントは、この男性の労働時間は、いわゆる「過労死ライン」に満たない残業時間であったところです。
そこで長時間労働による労災認定について、原則的な判断基準と、今年に入っての変更点について解説をいたします。
- 1、長時間労働の労災認定基準は「1ヶ月100時間以上」「2~6ヶ月の平均80時間を超える」
- 2、基準に満たなくても、労災として認められる可能性が増えた
- 3、長時間労働をしている会社が検討すべきこと
- まとめ
1、長時間労働の労災認定基準は「1ヶ月100時間以上」「2~6ヶ月の平均80時間を超える」
まずは、以前からある労災認定の判断基準です。正確には「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」と言います。一般的に過労死ラインとして知られているものです。要するに、脳と心臓への負担と長時間労働には大きな相関関係があり、この基準を超えると労災である可能性が高い、というものです。その基準が「1ヶ月100時間以上」または「2~6ヶ月の平均80時間を超える」です。後者はどこか一部でも期間を切り取って平均80時間を上回れば、基準を超えたとみなされます。なお、この「100時間」「80時間」は時間外労働時間の他に、休日労働時間も含みます。
また、拘束時間の長い業務や出張が多い業務などは、労働時間以外の負担要因として労災かどうかを判定する一つの基準になります。
2、基準に満たなくても、労災として認められる可能性が増えた
令和3年9月に労災認定基準について改正され、1の基準に満たなくても、労働にかかる負荷の程度が考慮されることが明確になりました1で示したように、労働時間以外の負担要因も考慮するということは今までもあったものの、現実的に過労死ライン未満で労災認定されるケースは非常に少なく、労災申請をためらう一つの要因になっていました。
実は冒頭の居酒屋のケースでも、以前は労災申請したものの、発症前2ヶ月平均の残業時間が75時間半で労災認定されませんでした。しかし、この改正で基準がより明確になったため、再度の労災申請を行い、不規則な深夜勤務や連続勤務、また身体的負荷の高い業務ということで、今度は認定がされたということになります。
これは、労災認定基準が事実上下がったと言って良いでしょう。長時間労働を許さない世論や雰囲気が、この改正を後押ししたものと言えます。
3、長時間労働をしている会社が検討すべきこと
これを会社側から見ると、長時間労働させている社員が倒れた場合、労災認定される可能性が高くなったということです。長時間労働で労災を出すということは、いわゆる「ブラック企業」のレッテルが貼られることに他なりません。会社へのダメージは大きいはずです。もちろん長時間労働を無くすことが大前提ですが、すぐに検討しておきたいこととして、以下のようなことが挙げられます。
・連続勤務をさせないこと
・勤務間インターバル制度(終業時間から始業時間まで一定時間空ける制度)の導入
・定期的な健康診断の実施
少なくとも、これだけの長時間労働をさせているということは36協定の特別条項を提出しているはずです。そこには、「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び 福祉を確保するための措置」が記載されています。その内容を会社の責任で必ず履行してください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。・「1ヶ月100時間以上」「2ヶ月~6ヶ月で平均80時間を超える」時間外労働で労災認定される可能性が高くなります。
・過労死ライン未満でも、状況によって労災認定される可能性が高まりました。
・労災事故を起こさないために、36協定に記載した健康確保措置を確実に実行しましょう。
長時間労働を行わせる会社への風当たりは、今後ますます強まるものと思われます。慢性的な長時間労働に陥っている会社は、大事故になる前に仕事そのものの見直しを行ってください。
その際には、ぜひ労働の専門家である社会保険労務士にご相談ください。