コロナ禍において、顧客から受けるカスタマーハラスメントが多くなったという声が聞かれます。確かなデータはありませんが、対面でのトラブルが減った分、電話などによる一方的なクレームが増えることは想像できます。
では、企業ではこのカスタマーハラスメントに対して、どのように対応すれば良いのでしょうか。
先日、NHKのコールセンターで、度重なるカスタマーハラスメントによる精神的苦痛を受けたことなどを不服として、労働者が企業を訴えた裁判がありました。労働者側はハラスメントの電話に触れさせないように企業側がすべきであり、安全配慮義務違反を主張しましたが、その主張は退けられました。
その内容から、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)に対峙する労働者を守る会社の対策について、検討いたします。
1、コールセンターだから仕方ないでは済まされない
この裁判の内容を聞いて、「コールセンターなら、そんなハラスメントまがいの電話を受けても仕方ない」と感じる方もいるのではないでしょうか。確かに顧客側を教育できない以上、仕事上やむを得ない、という考え方もあるかもしれません。しかし、この裁判で主張が退けられた理由は「仕方ないから」ではありません。同コールセンターでは、ハラスメントの電話は自身の判断で上司に転送可能となっており、企業側が心身の安全確保を図っていたからです。
これを逆に考えると、コールセンターであっても、その対策が不完全であれば、安全配慮義務違反の主張が通った可能性があるということになります。
2、カスタマーハラスメントを受ける労働者への配慮は会社の義務
労働契約法第5条において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」とあります。一般的に安全配慮義務と言われます。この安全配慮義務には、カスハラから受ける労働者の心労、ストレスから守ることも含まれます。
具体的には正当なクレームとカスハラを区別し、カスハラと思われた場合はただちに相談先(一般的には上司)に相談できるような仕組みを作ることです。もちろんその仕組みはマニュアル化し、複数の労働者で同じ対応ができるようにしておいた方が良いでしょう。
3、大事なのはシンプルで実践できること
仕組み化にあたって大事なのは、その運用をシンプルにすることです。残念ながらカスタマーハラスメントは女性や若年のアルバイトなど立場の弱い方に集中する傾向にあります。そのような立場で、かつ現場でそれが正当なクレームなのかハラスメントかを見分けることは難しいでしょう。シンプルに、違和感があった時点で相談先に連絡する、それが仮にハラスメントと呼べるものでなかったとしても責めない、というのが基本的な対策になります。
さらに、責任感の強い方だと、ハラスメントと呼べるものも自分の責任と感じて相談をしない可能性もあります。また、正当なクレームかハラスメントかグレーなものを、自身の評価の減点に繋がると感じて隠すこともあるでしょう。同じ理由で上司が隠すことがあるかもしれません。
事業主としては、このような意図的に隠れているものを見つけることも必要です。仕組みを作ることに注力するよりも、クレームもハラスメントも共有することが会社の財産になることを繰り返し周知し、相談しやすい環境にすることを重視してください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。カスタマーハラスメント対策は、安全配慮義務として事業主が担うべきものになります。実践できることを重視した対策を立て、繰り返し周知してください。会社がカスハラから労働者を守るという姿勢を見せることで、会社に対する労働者の信頼もアップするはずです。悪質なカスハラは弁護士を立てることも考えましょう。労働者への対応は社労士にもぜひご相談ください。