2019年から動き出した働き方改革の影響を受け、労務管理に対する社会意識は格段に高まってきています。その一方で、現場においては依然として不十分と言える対応が見受けられることもあります。今号では、安全衛生法第59条(安全衛生教育)違反の疑いで大手家電量販店が書類送検された事例から、労働者を危険又は有害な業務に就かせる際に行うべき「特別教育」について復習しましょう。
臨時的に危険又は有害な業務に就く従業員にも、特別教育の実施は必須
特別教育を修了していない労働者にフォークリフトを運転させたとして、大手家電量販店と同社商品センターグループ次長が労働安全衛生法第59条(安全衛生教育)違反の疑いで、2022年1月に書類送検されました。本件が発覚した背景には、2021年2月に、フォークリフトを運転中の労働者が左足膝下を切断する労働災害が発生していたことがあります。被災者は労災事故の数カ月前に別の部署からの応援で現場に配属されましたが、最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転に必要な特別教育が実施されていなかったことが労基署の調べによって明らかになりました。企業が実施すべき「特別教育」とは?
「特別教育」とは、危険又は有害な業務に労働者を就かせる際に、事業主が行うべき安全・衛生のための教育です。対象業務は、前項に挙げたフォークリフトの他、クレーンやローラーの運転、アーク溶接等の業務、電気取扱業務等、労働安全衛生規則第36条に規定される49の業務です。特別教育は、自社で行う他、外部機関での実施も認められています。外部機関は、各都道府県で登録講習機関として指定されていますので、参考URLよりご確認ください。労働者に受講させる場合、受講費用はもちろんのこと、交通費や受講時間相当の賃金は事業主が支払わなければなりません。
参考:厚生労働省「登録教習機関一覧(都道府県別)」
特別教育を実施したら、「受講者」「教育内容」「日付」「実施時間」等について記録を作成し、3年間保存しなければなりません。外部機関で受講させた場合、保存義務のある項目を記載した「修了証」が交付されます。
特別教育の内容、時間は、安全衛生特別教育規程で決まっている
特別教育でどのような教育を、どのくらいの時間、実施しなければならないかは、安全衛生特別教育規程において厚生労働大臣が定めています。参考:中央労働災害防止協会「安全衛生特別教育規程」
それぞれの業務について細かく定められていますが、冒頭で触れた「最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転に必要な特別教育」については以下の通りです。
学科教育
実技教育
特別教育の実施者となるための資格はありませんが、十分な知識と経験を有する人物である必要があります。また、特別教育の科目について、既に上級資格を取得済みである、職業訓練を受けたことがある等、十分な知識や経験を有していると認められる労働者については、その科目に係る特別教育を省略することができます。