先日、改正雇用保険法が可決されました。これにより、令和4年度の雇用保険料率の引き上げが確定したことになります。コロナ禍の雇用維持のために支給した雇用調整助成金などの影響で、雇用保険料の新たな財源確保の必要があったということです。
この方針自体は以前より厚生労働省から指針が示されていたもので、そこから変更はありません。では、この決定が私たちの給与にどのように影響してくるのでしょうか。ここでは雇用保険料の仕組みと、今回の改定で変わることについて、解説をいたします。
1、雇用保険料は何のために使われる?
雇用保険料と一口に言っても、実は様々な用途に使われています。これを分解すると大きく3つです。
① 失業等給付…被保険者が職を失った時などに支給されます。
② 育児休業給付…被保険者が育児などで働けなくなった時に支給されます。
③ 雇用保険二事業…雇用安定事業・能力開発事業の2つです。事業主向けの雇用安定のための助成金や、失業者や在職者への訓練事業などに使われます。
①と②は労使の折半となりますが、③は事業主のみが支払うものです。そのため、雇用保険料は労働者よりも事業主の方が多く納めています。
2、雇用保険料は令和4年度に2段階でアップする
今回決まった雇用保険法では、雇用保険料率アップのタイミングが2回あります。1回目は4月です。このタイミングで上がるのは雇用保険二事業にかかる料率です。つまり、社員の給与には影響しません。事業主だけが影響します。
アップ率は0.05%です。一般の事業の場合、事業主の支払う雇用保険料率は3/1000から3.5/1000となります。
2回目のアップは10月です。このタイミングで上がるのは失業給付等にかかる料率です。つまり、事業主はもちろん、労働者の給与に影響します。
アップ率は0.4%です。しかし、失業給付等は労使折半なので、労働者側が0.2%、事業主側が0.2%ずつそのアップ分を負担します。一般の事業の場合、労働者側、事業主側の雇用保険料率はともに3/1000から5/1000に上がります。
※厚生労働省リーフレット「令和4年度雇用保険料率のご案内」より
例えば300,000円の給与の方の場合、これまで300,000円×3/1000=900円だった雇用保険料の負担額が、300,000円×5/1000=1,500円に変わります。
なお、農林水産・清酒製造・建設の事業の場合は料率が一般の事業と変わります。ご注意ください。
3、給与への反映させるタイミングに注意
雇用保険料率はその月の給与分からの変更となります。よって、4月に労働した分を翌月に支給している場合、最初にこの料率が影響するのは5月支給分から、ということになります。給与締め日が属する月が、その月の給与ということになります。これを今回の雇用保険料率変更に当てはめると、4月分の変更は4月1日以降に締め日を迎える最初の給与計算期間から新料率が適用されます。10月分の変更は10月1日以降に締め日を迎える最初の給与計算期間から新料率の適用です。
賞与の場合は、賞与の計算期間の締め日が4月1日(10月1日)以降であったかどうかで判断をします。
雇用保険料は毎年、7月に労災保険料と一緒に納付を行います。これを労働保険の年度更新と言います。今年の年度更新のフォーマットに大きな変更はありません。ただし、雇用保険料率が年度途中で変わるため、いつもなら申告書に記載されている雇用保険料率が記載されていません。記載は料率で計算するのではなく、算定基礎賃金集計表で計算した概算雇用保険料を記載します。混乱しないように前もって認識しておきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
・雇用保険は失業給付等、育児休業給付、雇用保険二事業で使われます。
・令和4年度は4月、10月と2段階で雇用保険料率がアップします。
・特に4月1日、10月1日をまたぐ給与計算期間の場合、料率の変更のタイミングに注意してください。
雇用保険料率が変わるのは久しぶりです。さらにこれが年度途中の変更となると、ベテランの方でもなかなか経験が無いことだと思います。事前にその変更について理解して、慌てないようにしておきましょう。