「私は扶養に入れるのでしょうか」
私が社労士としてよく受ける質問の一つです。多いのは退職後に家族の被扶養者になりたいが、それが可能かどうかという相談です。
もっとも、この質問は漠然としすぎています。そもそも「扶養」の概念は所得税に関するものと社会保険(健康保険、厚生年金保険)に関するものと2つあります。よって、その質問の目的が何であるかによって回答が分かれます。
以前、所得税と社会保険における被扶養の考え方の違いについて、解説をさせていただきました。
今回は特にご質問の多い、被扶養者判定において御本人が受給している手当の考え方について解説をいたします。
1、本人が受け取る雇用保険の「基本手当」
まず、本人が再就職のため雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)を受ける場合です。社会保険において、基本手当は被扶養者の判断基準になる収入に含みます。よって、基本手当を受け取るということは、その金額によっては、被扶養者と認められる収入の基準を超えてしまうということです。
被扶養者となる収入の基準額は130万円未満(60歳以上は180万円)です。具体的には、基本手当日額が130万÷360日=3,612円(60歳以上の場合、180万÷360日=5,000円)以上だと、社会保険の被扶養の対象外となります。分母は365日ではなく、1ヶ月30日で算出します。基本手当日額は雇用保険受給資格者証に記載されています。この金額を参照して、ご自身が被扶養者にあたるかどうか、ご確認ください。
なお、待期期間や給付制限期間(2ヶ月)は基本手当を受け取れないので、被扶養者になることは可能です。同期間に被扶養者となった場合、待期満了日または給付制限期間終了日の翌日から、被扶養者として資格喪失となります(基本手当が前段の金額以上の場合)。
所得税においては、基本手当は非課税なので、被扶養者の判断となる収入基準に入りません。
2、本人が受け取る健康保険の「傷病手当金」
ご本人が体調不良などで退職をした場合、退職後も傷病手当金を受け取っているケースがあります。社会保険において、傷病手当金も被扶養者の判断基準となる収入に含まれます。考え方は基本手当と同様ですが、こちらの計算では分母を365日で計算します。
原則は130万円÷365日=日額3,562円(60歳以上の場合は180万円÷365日=4,932円)以上だと、被扶養者にはなれません。
所得税においては、傷病手当金は非課税であるため、被扶養者の収入に含める必要はありません。
3、本人が受け取る障害年金、遺族年金
社会保険において、障害年金や遺族年金もこれまで説明してきた各種手当と同様の考え方になります。つまり、それらの年金額が社会保険の被扶養者の判断基準となる収入以上になるか否かで、被扶養者になれるかどうか決定します。一方で所得税上は被扶養者の収入に含みません。ちなみに老齢年金は収入に含むのでご注意ください。これは障害年金や遺族年金が非課税であるのに対し、老齢年金は課税対象であるためです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
●基本手当、傷病手当金、障害年金、遺族年金は社会保険の被扶養者の収入に含みますが、所得税上の収入にはなりません。
●基本手当と傷病手当金において、社会保険の被扶養者か否かを判断する日額の計算方法が違います。
なお、実際の被扶養者の判断については、各健康保険組合にもご確認をすることをお勧めします。
退職後、手当を受けながら、同時に被扶養者となって社会保険料の支出を抑えたいという希望は理解します。しかし社会保険の被扶養者の判定上、一定以上の手当や年金を受けていると対象外となります。
被扶養者の対象外となる場合、ご自身で任意継続や国保加入など、別の方法で社会保険に加入する必要があります。
これらの手当や年金の額は退職時の段階でコントロールできるものではありません。つまり、それまでの収入から必然的に被扶養者になれるか否か決まってくるのです。