残業計算や残業時間の端数処理について解説。たかが端数、されど端数。
労務


残業代を計算する際、細かいが故になかなか結論が出ないのが端数処理です。たかが1円、されど1円。このあたりをおろそかにしていると、その後の処理もおろそかになる可能性があります。言わば、社員の生活を預かる給与計算を正確に行っているかどうかの試金石と言えるでしょう。

ここでは、残業代計算における金額・時間の端数処理について、担当者が知っておくべきことについて解説します。

この記事の目次

1、金額の端数処理は原則四捨五入。最後以外は端数処理をしなくてもOK

月給者に残業代を支払う場合、給与計算の過程で、下記のように1円未満の端数が出る可能性が3回あることがわかります。

1.残業代割増基礎額から月所定労働時間を割って、時給単価を出す時。
2.時給単価に残業割増率をかける時。
3.2の金額に残業時間をかけた時。


この時、労働基準法で認められているルールは、それぞれのタイミングで「50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げる」です。ざっくり言えば、四捨五入です。

では、実際に計算してみましょう。
例として、残業代割増基礎額220,000円、月所定労働時間168時間、残業時間24時間15分とします。

①残業代割増基礎額から月所定労働時間を割って、時給単価を出す時。
  220,000÷168=1309.5238≒1,310円
②時給単価に残業割増率をかける時。
  1,310円×1.25=1637.5≒1,638円
③2の金額に残業時間をかけた時。
  1,638円×24.25=39721.5≒39,722円

ただし、1と2の過程では、事務簡素化を目的に端数処理をしないことも認められます。

なお、最低賃金を時給としている場合、端数を切り捨てると、当然に最低賃金を割ることになります。四捨五入が原則ですが、結局は切り上げが無難、とも言えます。

2、残業時間は1分単位だろうと切捨てはNG。1ヶ月単位の集計なら例外あり。

もう一つ頭を悩ます端数処理が、残業時間です。例えば1日の残業時間について、15分単位や30分単位で切捨てを行っても良いのでしょうか。

結論としては、1分だろうと切捨てはNGと心得てください。仮に1分でも、その賃金を支払っていないということは賃金未払いと言えるのです。

ただし、例外として、1ヶ月単位であれば、「30分単位の四捨五入」が認められます。1ヶ月で残業時間を集計後、30分未満を切捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理です。こちらも事務処理の簡素化が目的でしょう。

これは30分以下の単位で切り捨てることを認めるものではありません。よって例えば「15分単位で切捨て」はNGです。あくまで30分の切捨てと切り上げがセットであるとご理解ください。

その他、実は「手取り額を100円未満で四捨五入する」「手取り額1000円未満を次月に繰り越す」ことは就業規則への記載を前提に認められています。給与を手渡ししていた名残ですね。

3、従業員の有利になるように、調整を行うことがベスト。

しかし、実務を担っている担当者から見ると、細かい端数処理や1分単位の残業時間計算は事務負担が高く、避けたいはずです。特に1分単位の計算については、EXCELでの関数も組みにくい60進法になるので、なおさら難易度が上がります。

そこで、従業員に有利になるように改定することは問題ありません。労働時間を15分単位で「切り上げる」方法などが考えられます。

例えば、17時終業の会社で「16時45分~17時にタイムカードを押せば、17時まで就業したものとみなす」という制度にして、残業をしない社員はこの間にタイムカードを押すことを促します。これで終業後の数分を残業時間に組み込むか否かという問題を解決できます。

そのうえで、残業を申請制にすることで、事業主側が意図していない残業が発生することを防ぎます。1分単位の残業時間集計で事務処理負担を増やす前に、従業員に有利な取り計らいを原則としつつ、不要な残業を減らす措置を取ることが、労務管理上は求められるということです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

●残業代計算の1円未満の端数は都度四捨五入が原則。もっとも、切り上げを行うのが無難。
●残業時間は原則1分単位で集計する。1ヶ月で集計したときのみ、30分単位での四捨五入が認められている。
●従業員が有利になるように制度設計をしながら、不要な残業を減らす工夫を!


たかが数円の違いですが、従業員から見れば、その数円をきちんと支払おうとしているという姿勢が嬉しいはずです。会社側から見てもその従業員の会社に対する信頼度アップが期待できます。

端数処理を正しく行うということは数円の問題ではありません。お互いの信頼関係を構築するために必要なステップであると言えるのです。

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