今や誰もが当たり前にインターネットを使えるようになり、最近では、弊事務所宛に高校生や大学生の方からご相談が寄せられることが増えています。お話を伺う限り、学生アルバイトが「?」と感じる職場での取り扱いは、多くの場合、法的に不適切であることがほとんどの様に思います。今号では、学生アルバイトに対する発言として問題になり得る典型的な例を3つご紹介しましょう。
問題となり得る発言① 「試用期間中に覚えられなかったら辞めてもらうね」
確かに「試用期間」というと、文字通り「お試し期間」のような印象を受けますが、試用期間中でも労使間にはれっきとした労働契約が締結されています。よって、試用期間中に会社が労働者を解雇する場合にも、労働者が退職の申し出をする場合にも、原則として本採用後と同様のルールに従う必要があります。
つまり、会社側には、解雇が認められるための客観的合理的理由があることを前提に、解雇予告手当の支払い又は30日前までの解雇予告をします(ただし、試用期間中で雇入れ後14日を超えない場合は対象外とすることが可能)。一方で、労働者側は、就業規則に則って退職の申し出(ただし、民法上は2週間前の申し出で良い)をしなければなりません。
もっとも、試用期間中は「解約権留保付労働契約」が締結された状態であることから、労働者の能力や適格性によって雇用を継続することが適当でないと判断された場合、解雇または本採用拒否が可能となるという考え方もあります。
ただし、これが認められるのは、原則的な解雇要件同様、「客観的に合理的な理由が存在すること」「社会通念上相当として是認されうる場合」のみとされています。単に、労働者の能力が会社の期待を下回っていた、数回のミスや遅刻・欠勤があった等の程度では認められません。労働者の能力不足や適格性不足、勤務態度の不良等に対し、会社は根気よく教育する等、あらゆる手を尽くさなければなりません。
問題となり得る発言② 「お店の物を壊したら弁償だから」
結論から申しまして、お皿を割った等の理由により、アルバイトがその物も代金を弁償しなければならないということはありません。確かに、物が壊れてしまったのはアルバイト本人のミスによるところかもしれませんが、このようなミスは業務上一定の確率で起こりうるものと判断され、壊した本人への賠償責任は発生しないと考えるのが通常です。
一方、意図的に物を破壊した場合、物が壊れた背景に重大な過失があった場合には、損害賠償責任が問われることもあります。
ただし、アルバイトに賠償責任がある場合にも、会社に与えた損害を給料から天引きすることはできません。労働基準法第24条は「賃金はその全額を支払わなければならない」と定めており、法令で認められる税金や社会保険料等を除き、原則的には給料の天引きは認められないからです。
問題となり得る発言③ 「休むなら、代わりの人を探してね」
こちらもアルバイトの労務管理でよく見かける事例ですが、「代わりの人を見つけられないなら休んではいけない」とすることはできません。確かに、急な欠勤はアルバイト側の債務不履行と判断でき、注意・指導の対象となる他、それでもなお改善されない場合には懲戒・解雇の可能性が生じます。
しかしながら、アルバイトが負う「労務提供義務」と「代替要員の確保」は、そもそもまったく別の問題です。円滑な業務遂行のために人員を確保する義務を負うのはあくまで使用者側であることを理解し、「休むなら代わりの人を探して」といった不当なルールを強要することのないようにしましょう。
まとめ
学生アルバイトの中には、まだまだ「働く」ということに対し認識の甘い方も多く、つい厳しめのルールで管理したくなることもあろうかと思います。しかしながら、会社側としては実務上、正社員であれアルバイトであれ、すべての労働者に対して法に則った取り扱いを徹底する必要があることを忘れてはなりません。アルバイトへの過度な管理を撤廃するためにはアルバイト側の意識を高める工夫が必要ですが、その際に「会社側の働きかけ」が有効となることがあります。例えば、就業規則や業務マニュアルの周知徹底、研修の実施等の取り組みを通して、会社として労務管理・業務指導を適正に行っている姿勢を示すことが、学生アルバイトの意識改革つながるケースは珍しくありません。
現状、会社として、改善の余地はないでしょうか?折を見て、前向きに考えてみましょう。