進む、キャッシュレス化!毎月の給与をPayPayで支払うことは可能?
労務


コロナ禍を背景に、私たちの生活において「キャッシュレス決済」がぐんと身近なものになりました。今やたいていの支払いで「○○ペイ」が利用できるようになり、「ちょっとした外出では現金を持ち歩かない」という方も増えているようです。あらゆる支払いの場面においてキャッシュレス化が進む中、企業側から「給与のデジタル払い」に関わるご相談を受けることが多くなってきています。

この記事の目次

2022年7月時点で、給与のデジタル払いは認められていません

タイトルの「毎月の給与をPayPayで支払うことは可能か?」について、結論として、2022年7月時点では労働基準法違反となるため認められていません。というのも、給与支払いの約束事として、労働基準法では「通貨で」、「直接労働者に」、「全額を」、「毎月1回以上」、「一定の期日を定めて」支払わなければならないと規定されているからです(賃金支払の五原則)。給与のデジタル払いでは、「通貨で」「直接」という点で対応していないことになります。

参考:厚生労働省「賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。」

「口座振込」がごく一般的になる一方、「デジタル払い」はなぜ認められないのか?

もっとも、現在では使用者が従業員に直接現金を手渡しする方法は一般的ではなく、銀行振込や証券口座への振込による給与支払いが通常となっています。これらは、賃金支払の五原則の「例外」として認められている方法です。

昨今、「銀行等の口座への振込が認められているなら、デジタル払いも直ちに認められるべきなのではないか」という観点から、政府では目下、給与のデジタル払いが可能となる方向で検討が進められています。ただし、デジタル払いの障壁となる課題はいくつかあり、重大なもののひとつに「資金保全」の問題が挙げられます。

キャッシュレス決済口座は、「資金移動業」を営む業者が開設しています。この資金移動業とは、銀行等のような許可制ではなく登録制で営業が可能で、その際の登録要件についても資本金や純資産額にかかる一律の基準がなく、銀行等と比較すると緩やかな内容となっています。緩やかな要件で営業できるとなると、利用者側としては経営破綻等のリスクを考慮しなければなりませんが、資金移動業者が破綻した際、利用者に資金が還付されるまでに半年ほどの期間を要すると言われています。加えて、不正利用が発覚した際、銀行であれば預金者保護法が適用されますが、資金移動業者の場合は「各社の定めによる」とされており、法定の補償規定がないことも問題視されています。

給与のような高額なやり取りをする上で、資金移動業者が果たして信頼のおける業者といえるのか、労使共に、現状では不安を感じる方も多くいらっしゃるでしょう。もちろん、資金保全を含めた諸々の課題については整備に向けた検討が進められており、政府が給与のデジタル払いを認める際には万全な体制が整うことになります。

参考:厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払について」

給与のデジタル払いに関わる従業員側の意識は?

給与のデジタル払いが可能となることで、企業側には「振込手数料が不要となる」「日本で銀行口座を持たない外国人材を確保しやすくなる」等のメリットが期待できます。一方、給与受け取り方法の選択肢が増えることは従業員にとっても好ましい流れと言えそうですが、実際のところはどうなのでしょうか?

一般社団法人日本資金決済業協会の調査によると、送金サービスの利用経験を持つ有職者(派遣・アルバイト含む)のうち、「ペイロール(図中の解説参照)の利用意向あり」は全体の16.6%と、あまり前向きとは言えないことが明らかになりました。

”ペイロール_利用意向"
出典:一般社団法人日本資金決済業協会「資金移動業者が行う送金サービスに関する調査【2022年】結果報告書 2022年6月」

もっとも、同種の調査はいくつかの媒体が行っており、一概に「積極的ではない」とまとめることはできませんので、データに捉われることなく、実際にそこで働く従業員の意向を踏まえて検討を進めるようにしましょう。

まとめ

給与のデジタル払いは、「2021年度中にも解禁か?」と注目されていたテーマですが、2022年7月現在も、継続して議論が進められています。
本文中では従業員意識に触れましたが、企業側にとってもメリットが期待される反面、システムコストや運用コスト、運営会社の与信等を理由に導入には消極的な意見を多く耳にします。企業においては、給与のデジタル払いを本格的な導入に先駆けて、労基法の規制を受けない会社独自の手当をデジタル払いとするところもあるようです。まずは試行することで従業員の反応を見つつ、少しずつ体制を整えていくといった方法もありますので、今一度、御社としての取り組み方をご検討いただければと思います。

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