裁量労働制(専門業務型裁量労働制または企画業務型裁量労働制)で働く社員の場合、一般的に勤務の開始、終了の時間は本人に委ねられています。実際の労働時間にかかわらず「みなし労働時間」内で働いたものとされます。それだけ労働者側の裁量が高いということです。では、そもそも出勤しなかった場合、それもまた「裁量」なのでしょうか。
ここではお問合せの多い、裁量労働制の社員における遅刻、早退、欠勤についての考え方について、解説をいたします。
1.裁量労働制と出退勤の自由はイコールではない
裁量労働制とは、労働時間よりも労働の質を重視して報酬が支払われる社員に対して、労使協定により、実際の労働時間にかかわらず、「みなし」の労働時間に勤務したとみなす制度です。デザイナーやコンサルタントといった、仕事量よりも結果を要求される社員によく使われています。誤解されがちなのですが、裁量労働制は「仕事の方法」に裁量があるのであって、出勤退勤の自由があるわけではありません。出退勤に裁量があるフレックスタイム制とは明確に区別されます。
裁量労働制の社員にも、具体的な指示命令はされないとはいえ、出勤時間、退勤時間、休憩時間は存在します。それらは会社のルールに従うべきで、出退勤や中抜けを自由にして良い、という話でありません。
よって、裁量労働制だからという理由で勝手に欠勤して良いということにはなりません。雇用契約書や就業規則の中で出勤日になっていれば、それは社員側に労働の義務があるのです。
2.欠勤をした日は、そもそもみなし労働時間の適用がない
では、裁量労働制で欠勤をした場合、欠勤控除は可能なのでしょうか。欠勤をした日は、そもそも労働をしていませんので、みなし労働時間の適用がありません。よって、完全月給などの特殊な環境で無い限りは欠勤控除を行うことは可能です。
もっとも、適正な手続きで年次有給休暇の申請が行われていた場合は、みなし労働時間働いたものとして賃金計算を行います。
一方で遅刻、早退については、その日に労働が行われている以上、みなし労働時間の適用となるので、遅刻早退による時間分の賃金控除はできない、と考えて良いでしょう。
3.繰り返し遅刻、早退、欠勤を行うのであれば、懲戒処分も検討できる
裁量労働制の社員というのは、そもそも任せる部分が大きく、ともすれば出退勤もルーズになりがちとも言えます。そのうえ、上記のように仮に労働をしていなくても給与に影響させにくいため、本人に出退勤をきちんとしようとするインセンティブが働きにくいのも事実です。裁量労働制と言っても、勤怠のルールは一般社員と同様に適用となります。例えば、遅刻早退欠勤について、事前に上司に届出をして了承を取るのも一つのルールです。
時間にルーズな裁量労働制の社員については、届出の無い欠勤等の問題行動に対して、必ず注意を行い、その記録を残してください。それを繰り返すようであれば、就業規則に従って懲戒処分をすることも考えられます。また、その評価を賞与に影響させることは可能です。
裁量労働制の社員も、一般社員同様に会社の規律を守るのは当然のことです。勤怠のルールが一人守れないと、また一人次の社員が守らなくなるという悪循環を生み出しかねません。裁量労働制の社員にも勤怠ルールがあることを周知し、それを守らせるように心掛けてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
●裁量労働制はあくまで「仕事のやり方」の裁量であって、フレックスタイムの「出退勤の自由」ではない。
●欠勤時の欠勤控除は労働していない以上は原則可能。遅刻早退の時間控除は不可。
●ルールに基づかない欠勤、遅刻早退に対する懲戒処分は可能。規律を守るという観点から裁量労働制社員にも勤怠ルールを守らせること。
仕事を任せられるのが裁量労働制の社員です。その社員の働きぶりは、他の社員へ与える影響も大きいはずです。だからこそ、裁量労働制の社員には、他の社員の見本となる働き方をしてもらわなければいけません。
裁量労働制の意味を正しく理解してもらい、勤怠ルールをきちんと守ったうえで、働いてもらいましょう。