前職の給与が嘘だった!面接時の給与詐称について考える。
労務


採用面接の際に前職の給与額を聞くことはよくあることです。特に中小企業の場合、前職並みの給与を保証することで、入社へのアピールをすることもあるでしょう。

しかし、その前職の給与額、本当でしょうか。ここでは、前職給与の詐称があった場合の対応、およびそれを防ぐ方法について解説をいたします。

この記事の目次

1.前職給与の詐称は懲戒にできる可能性はあるが、解雇は難しい。

まず、前職の給与額を偽っていた場合、それを理由に解雇はできるのでしょうか。

もちろん、解雇は個々の案件ごとに論じられるものであり、この話だけで断言はできませんが、一般的に解雇は難しいと言わざるを得ません。

採用後に社員を解雇するためには、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」であることが求められます。このケースは程度で判断されるとはいえ、後で述べるような、よく行われる程度の給与の詐称だと、上記の理由に該当するレベルとは言えません。

一方で、会社と社員の間には信頼が大事です。このような詐称は信義に反します。就業規則の懲戒規定に経歴等の詐称の項目があれば、懲戒処分は可能でしょう。

なお、前職の給与額を高く偽っており、その金額をベースに給与を決定した場合でも、前職のレベルまで会社が一方的に給与を下げることは、不利益変更と捉えられる可能性もあります。現実的な処分としては、懲戒処分を行い、本人とよく話し合って、お互い合意のうえで給与金額を調整する、ということになります。

2.前職の給与額を聞かれれば「盛り」たくなる。

面接者の前職の給与額を、入社後の給与の参考にしている会社は多いでしょう。前職の給与額をそのまま入社後の給与にしているところもあると思います。

当然、面接者側もそれをわかっているわけですから、高い金額を言いたくなります。嘘をつける人はもちろん、嘘をつけない人でも「盛り」たくなるわけです。

そこで「前職でいくらもらってた?」というざっくりした質問だと、賞与、インセンティブ、長時間の残業代の最高額を込みにした金額を言ってみたり、6ヶ月分の定期代を入れてみたり。面接者も生活がかかっているわけですから、当然、後からギリギリ言い訳できるレベルを模索したくなるのは、理解できます。

実際、顧客からのご相談で、前職の給与額が嘘だったということでよく話を聞いてみると、その額はまったくの嘘だったというケースよりも、交通費込みだったとか、希望年収を聞いているかと思ったといったような、意図的ともそうでないともとれるような回答の方が多いようです。こうなると、面接者側にその責任を負わせることも難しくなります。

会社としては、面接者の心理を理解して、前職の給与額を聞くときは、その金額に含まれる範囲を確認するなど、慎重になりましょう。

3.前職給与を聞く場合は、必ず証拠で確認しよう。

では、このような前職の給与額の詐称を防ぐにはどうすれば良いでしょうか。これは、必ず証拠で確認することです。

具体的には、前職の源泉徴収票、離職票などが挙げられます。給与明細書でも良いのですが、公的な機関に提出するものの方が信頼度は高いです。「前職会社が作ってくれない」という言い訳を聞くことがありますが、そもそも源泉徴収票や離職票の作成は会社の義務です。その要請ができない、ということは前職の会社とトラブルを起こしている可能性もあります(もちろん、前職会社側の問題の方が大きいこともあるでしょう)。

特に前職の給与額をベースに入社後の給与を決めるのであれば、必ずこういった書類でその金額を確認しましょう。後でお金のことで揉めるより、お互いにストレスがずっと少ないはずです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

●程度によるが、前職の給与額の詐称という理由のみで解雇は難しい。詐称されたことにより過大に支払われた給与額は話し合いで調整する。
●面接者は前職の給与額を「盛り」たくなる。その心理を理解して、前職の給与額の質問は慎重にする。
●前職の給与額を聞く場合は、必ず証拠書類で確認をすること。


会社と社員との信頼関係が損なわれると、会社としてはその社員にかけた時間、費用を考えると、大きなダメージと言えます。

その社員が信頼に足る人間かどうか、面接がいわば最後の関門です。わずかな手間を惜しんではいけません。その面接時に話をしたことが真実かどうか、必ず確認をしておきましょう。

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