月給30万円の飲食店の店長に残業代支給は必要か。飲食店店長における管理監督者性について考える。
労務


一般的に「管理職は残業代を支払わなく良い」という認識があります。労働基準法第41条において「労働時間、休憩及び休日に関する規定は、(中略)次の各号の一に該当する労働者については適用しない」とされており、その2項に「監督若しくは管理の地位にある者」とあるからです。これを一般的に管理監督者と言います。では、飲食店の店長はこの管理監督者にあたるのでしょうか。

先日、飲食店の店長を務めていた労働者が残業代の不払いなどを不服として訴えた裁判において、東京地裁は会社が主張する労働者の管理監督者性を否定し、残業代含め約1000万円の支払いを命じました。

同様のケースで有名になった事例が、ハンバーガーチェーンのマクドナルド店長に対する管理監督者性について争われた平成20年の判決です。この判決でも、店長の管理監督者性は否定され、未払い残業代の支払いが命じられています。

今回の判決では、正社員が店長のみという比較的小規模な店舗で起きた事件であり、同様の店舗規模で運営されているケースは多いと思われます。特に小規模店舗を経営されている事業主の方に知っていただきたく、解説をします。

この記事の目次

1.管理監督者性が認められるかどうかは、総合的に判断される。

まず、残業代を支払う必要の無い労働基準法上の「管理監督者」とは、一般的に認識されている「管理職」と定義が違うということを押さえましょう。

前述のマクドナルド事件において、その管理監督者にあたるかどうかの判断基準について、以下のように述べられています。

1.経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有している。
2.自己の労働時間について裁量を有している。
3.管理監督者に相応しい賃金等の待遇を得ている。


なお、これらはすべてを満たしていなくてはいけない、というものではなく、上記の視点をもって総合的な判断を行うことになります。

2.シフトを決定する権利は自己の労働時間の裁量があることとイコールではない

今回の裁判で会社は、店長がシフトを決定する権利を有しているという点で、自己の労働時間の裁量があると主張しました。

しかし、店長は本当に自由に自分の労働時間を決められるでしょうか。小規模店舗においては、先にアルバイトの希望労働時間を優先してシフトを決定し、足りない時間に本人のシフトを入れるというケースは少なくないはずです。

結局、店長の勤務時間はアルバイトのシフト量や繁閑に左右されており、「自己裁量がある」とは言えないと評価されています。

3.月給30万円は管理監督者に相応しいとは言えず

もう一つ問題に上ったのが、その待遇です。会社は店長に対して、毎月30万円の賃金を支払っていました。一般的な飲食店従業員の月給は25万円程度として、この待遇は管理監督者に相応しいでしょうか。

東京地裁はこの賃金について、管理監督者として「相応しくない」と判断しました。このことからも管理監督者性を否定しています。

店長はいわば一般的な労働者の給与に、月5万円の役職手当がついていたのと同じ状態となります。しかし5万円という金額は、月25万円の給与でも約30時間分の残業代にあたります。当該の店長は30時間以上の実質的な残業をしていたと思われ、管理監督者と扱われることで、かえって給与が下がるという逆転現象が起きていたと推測します。

このような具体的な金額が示されたうえで、その管理監督者性が否定されたということは、同規模の店舗の経営者にも参考になるはずです。自店舗の社員の給与と比べてみてください。

まとめ

●残業代のいらない管理監督者にあたるかどうかは、総合的に判断される。
●アルバイトのシフト勤務を作成していても、自身の労働時間に裁量があることにはならない。
●月30万円程度の給与だと、管理監督者性は認められない可能性が高くなった。


変動費となる残業代を極力抑えたいという店舗経営者の気持ちは理解します。しかし、店舗に社員1~2名とアルバイトという、よくある飲食店の経営形態の場合、実質的に管理監督者扱いで残業代を支払わない、というのはこの裁判例を見る限り、かなり難しいと言わざるを得ません。

もちろん、店舗によってその事情は異なります。まずは、店長に労働者性があるかどうか、ということを再度検討してください。そのうえで給与待遇を決定しましょう。労働者性の判断に迷ったら、ぜひ専門家にご相談ください。

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