現在、社会保険の各種手続き・届出では、氏名について戸籍上の記載に則ることとされ、健康保険被保険者証には戸籍上の氏名が印字されます。この点、協会けんぽが交付する健康保険被保険者証に関して、氏名等記載変更に係る申出を行うことにより、通称名や旧姓を記載することが可能です。従業員の多様な性自認、婚姻後の旧姓使用へのご対応に、お役立ていただけます。
被保険者証に通称名を記載する申出を行う場合の表記
健康保険被保険者証への通称名の記載は、性同一性障害を有する方について、協会けんぽがやむを得ないと判断した場合に認められます。申し出が認められると、被保険者証表面の「氏名欄」に「通称名」、「性別欄」に「裏面参照」と記載されます。また、被保険者証裏面の「備考欄」に「戸籍上の氏名」「性別」が記載されます。
被保険者証に旧姓を併記する申出を行う場合の表記
選択的夫婦別姓制度導入を求める声の高まりを背景に、婚姻後の旧姓使用を希望する方に対しての行政側の配慮が各所で進んでいます。すでに住民票やマイナンバーカードに関しては旧氏併記が認められていますが、申し出により健康保険被保険者証についても同様の取扱いが可能となっています。被保険者証表面の「氏名欄」については、戸籍上の氏と名の間に括弧書きで旧姓が表記され、その上で裏面の「備考欄」に「氏名欄の括弧内は旧姓」と記載されます。
今号でご紹介した通称名記載、及び旧姓併記の申し出手続きの詳細に関しては、以下よりご確認いただけます。
参考:協会けんぽ「被保険者証通称名記載及び旧姓併記の取扱い」
通称名や旧姓の使用を希望する従業員へご配慮を
職場での通称名や旧姓の使用について、御社ではルールを定めているでしょうか?冒頭でも触れましたが、今日では多様な性自認への理解が進んでいること、さらに選択的夫婦別姓制度について議論が重ねられていることに鑑みれば、従業員側の通称名や旧姓使用の希望に対し、企業側は最大限配慮すべきと言えそうです。今号で解説した健康保険被保険者証の例のように、通称名の使用や旧姓の併記については行政側で幅広く認められつつあります。もちろん、企業においては経理上及び人事上の管理として、通称名・旧姓と戸籍名の両方の把握、適切な使い分けを徹底しなければなりませんが、これらを踏まえて前向きにルールを作っていくことが、時代の流れに則した対応と言えるのではないでしょうか。まとめ
職場において、通称名や旧姓の使用は必ずしも認めなければならないわけではありません。しかしながら、姓名はその人のアイデンティティそのものであり、職場での旧姓使用が認められないことから訴訟に発展したケースもあるため、企業においては慎重に検討を進めるべきテーマです。通称名や旧姓の使用を認める場合、通称名や旧姓の使用がどのような時に、どの程度の範囲で認められるのか、さらに認められるための具体的な手続きについて定めておく必要があります。通称・旧姓使用に係るルール策定については、労務管理の専門家である社会保険労務士にお気軽にご相談ください。