1.立替金と仮払金
立替金と仮払金は、どちらも一時的に出金を行ったことを示す、資産の部に属する勘定科目です。勘定科目とは、会社の取引内容を端的に表現するものであり、仕訳を行うにあたり適切な勘定科目を使用することが求められます。適切な勘定科目を使用することで、仕訳が記されている帳簿から、会社の取引内容を誰の目から見てもおおよその想像が出来るようになります。
立替金と仮払金は、例えば、立替金として10,000円を現金で支払った、また仮払金として10,000円を支払った場合は以下のように仕訳を行います。
●立替金の支払いの場合 立替金10,000円/現金10,000円
●仮払金の支払いの場合 仮払金10,000円/現金10,000円
このようにとても内容も見た目もよく似た仕訳です。日常生活においても、友人と食事に行き全員分の食事代を一時的に払った場合には「立替え払いしておいたよ」「仮払いしておいたよ」と伝え、後ほど友人から友人分の食事代のお金を貰うことがあるでしょう。どちらのセリフを友人に伝えても、後からお金が欲しいという意図は伝わるでしょう。
よってどちらの勘定科目を仕訳で使用しても、意図は伝わります。しかし出来るだけ正確な会計帳簿をつけるためには、この2つの違いを把握して使い分ける必要があります。以下では立替金と仮払金の違いについてご説明をします。
2.立替金とは
立替金とは、一時的な出金のうち会社が従業員や取引先の代わりに支払いを行ったものです。従業員や他社の肩代わりですので、従業員や他社からそのお金を受け取る権利があります。このお金を受け取る権利を金銭債権といいます。例えば4月1日に取引先と業界のパーティに参加した際、本来取引先が支払うべきパーティの会費を会社が立替えをし、1社10,000円の参加費を2社分の20,000円を現金で支払った場合は以下のように仕訳を行います。
■4/1 交際費10,000円/現金20,000円
立替金10,000円
その後の5月1日に取引先が10,000円を預金に振込み、会社に返金を行った場合は以下のように仕訳を行います。
■5/1 普通預金10,000円/立替金10,000円
このように、後からお金を受け取る権利のある一時払いを立替金とします。立替払いを行った際に貸方に、そのお金を受け取った際に借方に仕訳をされる勘定科目です。
3.仮払金とは
仮払金とは、一時的な出金のうち支払い時には用途が不明な支払いを行ったものです。預金から出金があったが何の出金であるか不明であり内容の調査中である場合や、出張費の概算払いを行った場合などに使用されます。立替金のように後からお金を受け取る権利を示しているものではありません。何の出金であるか不明であり、内容の調査中とは以下のような場合です。例えば4月1日に預金から10,000円の出金があったが、内容が不明である場合は以下のように仕訳を行います。
■4/1 仮払金10,000円/普通預金10,000円
その後の5月1日に該当する領収書が見つかるなどとして、その内容が消耗品を購入したことの引落だったと判明した場合は以下のように仕訳を行います。
■5/1 消耗品費10,000円/仮払金10,000円
この仕訳を5月1日に行うことが最も丁寧な経理方法ですが、以下のように4月1日の仕訳を訂正することもあります。
■4/1
↓
■4/1 消耗品費 10,000円/普通預金10,000円
また出張費の概算払いを行うというのは以下のような場合です。例えば4月1日に従業員が出張を行うにあたり、出張に必要であろう100,000円を概算として従業員に現金で渡した場合は以下のように仕訳を行います。
■4/1 仮払金100,000円/現金100,000円
その後の5月1日に従業員から出張経費として50,000円が電車代、30,000円が取引先との会合であったという報告があり、残り20,000円が会社に現金で返金された場合は以下のように仕訳を行います。
■5/1 旅費交通費50,000円/仮払金100,000円
交際費 30,000円
現金 20,000円
この5/1に従業員から出張経費として報告された内容が、80,000円が電車代、30,000円が取引先との会合であったというもので、仮払を行った金額より出張経費が上回り、10,000円を現金で追加払いした場合は以下のように仕訳を行います。
■5/1 旅費交通費80,000円/仮払金100,000円
交際費 30,000円/現金10,000円
このように仮払金は仮払いを行った際に貸方に、その仮払いの内容が判明をした際に借方に仕訳をされる勘定科目です。
4.決算時の処理の違い
上記のように立替金とは仮払金は異なる事由をもって仕訳を行います。そのため、決算時での取り扱いが異なります。 立替金も仮払金も、事由の発生時には貸方に、事由の解消時には借方に仕訳を行います。よって事由が解消されていれば期末には貸方と借方が相殺されて残高の無い科目となります。この残高が発生している場合は、他の貸借対照表の勘定科目と同様に、それは残っているべき金額なのか精査を行う必要があります。立替金の残高が決算時にある場合は、事由が解消されておらず、それが正しいと判明するようであれば、残高としてそのまま決算書に記載して問題はありません。しかし仮払金の残高が決算時にある場合には、事由が解消されていないということは、何のために出金を行ったのか分からない取引が存在していることを示し、残高として決算書にそのまま記載するのは少々問題があります。
何のために出金を行ったのか分からない取引が大量にあり、仮払金の残高が巨額になった状態で決算書を税務署等に提出を行うと、会社の会計に関する正確性が疑われます。正確性が疑わしい会社には税務調査が入りやすく、また信用のおけない決算書では銀行からの借入も難しくなります。よって仮払金の残高が巨額になることは好ましくない状態です。
仮払金はまずはなるべく早くその内容を精査するように努めると良いでしょう。期末にまとめて精査を行うと、時間が経っている分、内容を思い出しにくくなります。仮払金を計上すべき不明な出金が発生した場合、出来る限りすぐにその内容を精査して、解消の仕訳を行うと良いでしょう。
精査を行ってもどうしても内容が不明になってしまった場合は、雑損失などに振替処理を行う必要があります。例えば、4/1に預金より内容が不明の出金が5,000円あったが、決算日まで内容が判明しなかった場合は以下のように仕訳を行います。
■4/1 仮払金5,000円/普通預金5,000円
■決算整理仕訳 雑損失5,000円/仮払金5,000円
内容が判明していて、事由の解消が期を跨いでしまうことが決算時に残高がある理由である仮払金については、見栄えとしては良くないですがその状態が正しいものであればそのまま決算書に記載して問題はありません。
5.まとめ
以上のように立替金と仮払金とはとてもよく似た勘定科目ですが、発生事由の異なる勘定科目です。一時的な出金があった際には、どちらの勘定科目を使用する方が適切か検討を行ってから仕訳を行うと良いでしょう。またどちらも一時的な出金ですので、決算時にはそれらの残高があって良いものなのかは精査を行い、それらの残高の内訳については説明を出来る状態にしておくことが大切です。決算時に税務署に提出するべき書類の一つである勘定科目内訳書という書類にてその内容を税務署に知らせる必要があり、かつ貸借対照表に記載される科目は翌年以降も数字が繰り越されますので、翌年以降も内容が分かるように明らかにしておくことが必要です。
どちらの勘定科目を使用すれば良いか分からない、残高の内容の確認の仕方が分からない、などといった不明な点がございましたら、是非身近な専門家にご相談をされることをお勧めいたします。