固定資産の修繕を行った場合、勘定科目の判定は?
税務・財務


この記事の目次

1.修繕を行った際の支出の仕訳は、修繕費計上と固定資産計上の二通りの処理がある

壊れたパソコンの修理を業者に依頼した際の修理費用や、生産設備の能力向上のために修繕を行った際の修繕費用などの支出をした場合、この仕訳を行う際に使用する勘定科目は修繕費か固定資産(建物や機械など)との二通りがあります。

修繕費とは修理を行う際の支出に対する勘定科目で、費用科目です。よって修繕費に計上される全額が当期の法人税を減らす効果のある損金として認められます。
一方で固定資産は減価償却という計算方法を用いることで、耐用年数期間に渡り按分をされて法人税を減らす効果のある損金として認められます。 よって当期の法人税を減額する効果が高いのは修繕費として計上をする方法です。

2.修繕費として計上が出来る基本的なポイント

修繕費として計上をするためには以下の点に沿った修繕内容である必要があります。

①使用可能期間(耐用年数)を延長しない修繕であること
②資産の価値を増加させない(通常の管理や維持に必要な)修繕であること
③新たな資産の取得(物理的な付加)でな修繕であること
④用途の変更でない修繕であること


3.修繕費と固定資産計上の具体的判定

上記2を満たすことが修繕費として計上を出来る基本的な判断基準ですが、より細かい判断基準があります。
以下①から順に判断を行います。

判定① 支出金額は20万円未満か

20万円未満である修繕に係る支出は修繕費として計上をすることが出来ます。20万円超の場合は判定②に進みます。

判定② 周期はおおむね3年未満か

周期が短いものに係る支出は修繕費として計上をすることが出来ます。3年を超えて数十年に1度の修繕や、周期は無く突発的に生じた修繕の場合は判定③に進みます。

判定③ 明らかに価値を高める、もしくは耐久性を延長する支出か

明らかに価値を高めるとは、現状ある機械に対して新たな機能を追加して修繕を行った場合であり、また耐久性を延長するとは、故障部分のみならず新品同様に機械の全体を修繕した場合をさします。これらに該当する場合は固定資産として計上をしなくてはいけません。
該当しない場合は判定④に進みます。

判定④ 支出金額は60万円未満か

判定①で除外された20万円超の支出が、判定②や③で修繕費として認められなかった場合、再度この判定④で金額をもって判断を行います。60万円未満である修繕に係る支出は修繕費として計上をすることが出来ます。60万円超の場合は判定⑤に進みます。

判定⑤ 前年末取得価額の10%以下か

前年より取得をしている固定資産に対して修繕を行った場合、その支出がその修理、改良等に係る固定資産の前年12月31日における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合は修繕費として計上をすることが出来ます。10%超の場合は判定⑥に進みます。

判定⑥ 災害の特例を使用出来るか

災害の特例とは、災害により損壊した業務の用に供されている固定資産について支出した費用で、その費用の額を修繕その他の原状回復のために支出した部分の額とその他の部分の額とに区分することが困難なものについては、その費用の額の30%相当額を原状回復のために支出した部分の額とし、残余の額を資本的支出の部分の額とすることができるという定めです。

この特例が使用を出来る場合には、修繕に対する支出のうち30%が修繕費として計上することが出来、残りの70%を固定資産として計上を行います。この特例が使用出来ない場合には判定⑦に進みます。

判定⑦ 割合区分による特例を使用する

修繕に係る支出のうち修繕費部分の金額が明らかでない場合には、継続適用を条件として、支出額の30%相当額もしくは修繕を行った固定資産の前期末取得価額の10%相当額かのいずれか少ない金額を修繕費として計上し、残額を固定資産として計上をすることができます。
これを継続適用しない場合は判定⑧に進みます。

判定⑧ 実質判定を行う

上記①~⑦に該当せず判定⑧まで進んだ場合は、金額ではなく個々の修繕の内容について検討して修繕費として計上を出来るか判断します。

このように①から順に検討を行い、修繕費として計上が出来るか、又は固定資産として計上をするべきか判断を行います。

4.機械を修理した際の仕訳例

以下では具体的な金額を用いて事例を仕訳で記載します。

事例①

4/1に機械の故障に対して、現金で修繕代金50万円を支払った。なおこの修繕は機械の性能や耐用年数を延長するようなものではなく、故障部分を修理し従前の状態に戻したものである。また定期的に修繕を必要とする機械ではない。

4/1 修繕費50万円/現金50万円
この事例を上記3の具体的判定に当てはめます。まず判定①では金額が20万超のため、判定①の時点では全額を修繕費として計上をすることは出来ません。次に判定②では周期の判定を行いますが、定期的な修繕を必要とする機械ではないため、判定②の時点でも全額を修繕費として計上をすることは出来ません。

次に判定③で価値や耐久性の増加の判定を行います。この例は故障部分を修理し従前の状態に戻したものであるため、この判定③にて修繕費として計上をすることが出来ると判断をすることが出来ます。

事例②

4/1に機械の故障に対して、現金で修繕代金50万円を支払った。なおこの修繕により新しい機能が追加された。また定期的に修繕を必要とする機械ではない。

4/1 機械50万円/現金50万円
この事例を上記3の具体的判定に当てはめます。まず判定①では金額が20万超のため、判定①の時点では全額を修繕費として計上をすることは出来ません。

次に判定②では周期の判定を行いますが、定期的な修繕を必要とする機械ではないため、判定②の時点でも全額を修繕費として計上をすることは出来ません。

次に判定③で価値や耐久性の増加の判定を行います。この例は新機能が追加されたため、この判定③にて修繕費として計上をすることが出来ず、固定資産として計上をしなくてはならないと判断をすることが出来ます。 仮に判定の順番を間違えるとどうなるのでしょうか。

判定③の前に判定④である支出金額は60万円未満かで判断を行うと、この例は支出金額が50万円未満であるため、修繕費として計上が出来るという判断になってしいます。つまり仕訳で使用すべき勘定科目を誤ってしまいます。この判定は順番通りに行うことが重要です。

5.まとめ

固定資産の修繕を行った場合、修繕費と固定資産計上の二通りの処理方法がありますが、当期の法人税額を減らす効果の観点から考えると、修繕費で計上をする方が会社にとって有利な処理方法です。処理の煩雑さの観点からも、修繕費として計上をする方が減価償却の計算や固定資産台帳の作成が無い分会社にとって有利な処理方法だといえるでしょう。

有利であるからこそ、修繕費として計上をするためには判断基準が厳しく設けられています。この判断は正しく順番通りに行わないと、使用すべき勘定科目の選定を誤ってしまいます。処理の誤りは当期中に気が付けば問題は無いですが、その間違いをもって税務署へ申告をしてしまうと、後に税務調査の対象となり、申告書の再作成や税金の追徴をうける可能性があるため、処理は日々正しいものを行いたいものです。

どうぞ上記をご参考に処理を行ってくださいませ。 上記の内容でご不明な点がございましたら、身近な専門家に相談されることをお勧めいたします。

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