概要
中小企業において使用できる税額控除制度の紹介パート4となります。
1. 中小企業等投資促進税制
└ 中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除
2. 中小企業者等における教育訓練費の税額控除
└ 平成20年4月1日から平成24年3月31日までに開始した事業年度分
3. 中小企業技術基盤強化税制
4. 子育て支援税制
└ 事業所内託児施設等の割増償却
5. 雇用促進税制
└ 雇用者の数が増加した場合の税額控除
6. 所得拡大税制
└ 雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除
今回はご紹介してきた税額控除の中で最も対象者が多いであろう、「6.所得拡大税制」について取り上げていきます。
それでは所得拡大税制とはどのような税制かを早速みていきましょう。
6. 所得拡大税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除)
物価上昇はしても、中小企業の平均給与はなかなかあがらない。そんな状況に対して打ち出された政策の一つがこの所得拡大税制です。
会社に対し、継続的に雇用する社員の平均給与を毎年上げていけば税金の支払いで少し優遇するよというのがこの制度。会社も従業員もハッピーな制度ですので是非活用したい制度ですね。
それでは細かい条件についてみていきましょう。
条件
① 税額控除の適用の対象となる要件
b.雇用者給与等支給額が基準事業年度より一定割合以上増加している
c.適用年度の雇用者給与等支給額が前事業年度以上の額である
d.平均給与等支給額が、前事業年度を上回っている
順番に詳しく見ていきましょう。
a.白色申告を行っている場合は対象外です。
b.雇用者給与等支給額とは、所得税法上、給与所得に規定する給与等(俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与の額))の支給額を言い、役員やその親族に対する支払を除く国内雇用者に対する給与等であります。
また基準事業年度とは平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度開始の日の前日を含む事業年度をいいます。
一定割合以上の増加の割合は事業年度により異なります。
平成28年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する事業年度
→ 4%(中小企業者の場合3%)
平成29年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する事業年度
→ 5%(中小企業者の場合3%)
c.文言通り適用事業年度の雇用者給与等支給額が、前事業年度の所得の金額を超えていることが必要です
d.平均給与等支給額が前事業年度の平均を超えている必要があります。
平均給与等支給額については、「継続雇用者」の平均を計算する必要があり、給与等支払額を継続雇用者の月毎の延べ人数の合計で割ることで求められます。
ただし給与等支給額には高年齢者雇用安定法に基づく「継続雇用制度」の対象者(定年60歳を超えて働いている人)に支給された給与等は含めません。
ここでいう継続雇用者というのは適用年度及びその前事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者のことを指します。つまり適用年度と前事業年度をまたいで所属する方のことを指しますのでどちらかの事業年度しか所属していない方については含まれないこととなります。
計算例
具体的に計算例を見ていきましょう。
Pさん(雇用保険加入者) 25年4月入社 月給30万円
Lさん(雇用保険加入者) 25年4月入社 月給20万円
Uさん(雇用保険加入者) 27年4月入社 月給20万円
→ 給与等支給額 840万円 平均給与等支給額 23.3万円
Pさん(雇用保険加入者) 25年4月入社 月給30万円
Lさん(雇用保険加入者) 25年4月入社 月給20万円
Uさん(雇用保険加入者) 27年4月入社 月給15万円
Sさん(雇用保険加入者) 26年3月入社 27年8月退社
Sさんは前事業年度内で退社しているため継続雇用者に該当せず計算に含めないので、「給与等支給額 780万円」「平均給与等支給額 21.7万円」となります。
また、基準事業年度 平成25年4月1日~平成26年3月31日 においては
・Pさん(雇用保険加入者) 25年4月入社 月給30万円
・Lさん(雇用保険加入者) 25年4月入社 月給20万円
となるので、給与等支給額は600万円となります。
それでは各要件について見てみましょう。
要件b.
840万円 ÷ 600万円 = 140% となり、「40% < 4%」なので、要件クリアとなります。
要件c.
「840万円 > 780万円」なので、要件クリアです。
要件d.
「平均給与等支給額23.3万 > 平均給与等支給額21.7万」なので、要件をクリアしています。
よってこの場合所得拡大税制の利用は可能であると判断できます。
② 対象となる事業年度
平成25年4月1日から平成30年3月31日までの期間内に始まる事業年度が対象となります。
③ 税額控除できる金額
税額控除限度額は雇用者給与等支給増加額の10%相当額です。ただし、その事業年度の法人税額の10%(中小企業者等については20%)相当額が限度となります。
先ほどの具体例の場合(中小企業であり法人税額は100万円とする)
雇用者給与等支給増加額 : 840万円 - 780万円 = 60万円
税額控除額 : 60万円 * 10% = 6万円
税額控除限度額 : 法人税額 * 20% = 100万円 × 20% = 20万円
「6万円 < 20万円」となり税額控除可能な金額は6万円と計算できます。
適用手続き
雇用者給与等支給増加額及び控除を受ける金額を確定申告書等に記載するとともに、その金額の計算に関する明細書を添付して申告するのみです。
まとめ
一度上げた給与を下げることは難しいですが、所得拡大税制では賞与額についても支給額に含めることができるため、利益が出ている場合には従業員に還元をし、結果的に節税につながる、そんな会社は理想的ですね。
全4回にわたってご紹介してきました税額控除制度の中では比較的計画的に実施をしなくても控除を受けることのできる税制ですので、期末を迎える前に、一度状況を整理し、賞与の支払いの検討をされてみるのもよいかもしれません。