令和元年開始!個人版事業承継税制とは~相続編~
税務・財務

令和元年度税制改正により、青色申告に係る事業を行っていた事業者の後継者として円滑化法の認定を受けた人が、平成31年1月1日から令和10年12月31日までの贈与又は相続により、特定事業用資産を取得した場合は、納税の猶予、免除が受けられることとなりました。
今回は相続によって事業承継を行う場合についてご紹介致します。

この記事の目次

1.個人版事業承継税制を受けるための後継者の主な要件

相続人である後継者は、以下の要件を満たすことで個人版事業承継税制を受けることが出来ます。

①円滑化法の認定を受けていること

②先代事業者等が60歳未満で死亡した場合を除き、相続開始の直前において特定事業用資産に係る同種、類似の事業等を含む事業に従事していたこと

③相続税の申告期限において開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること

④特定事業用資産に係る事業が、有価証券、自ら使用していない不動産、現金、預金等の特定の資産の保有割合が特定事業用資産の事業に係る総資産の総額の70%以上となる事業やこれらの特定の資産からの運用収入が特定事業用資産に係る事業の総収入金額の75%以上となる事業である資産管理事業及び性風俗関連特殊営業に該当しないこと

⑤先代事業者等から相続等により財産を取得した者が、特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例の適用を受けていないこと

2.個人版事業承継税制を受けるための先代事業者の主な要件

被相続人である先代事業者は、以下の要件のいずれかを満たすことで個人版事業承継税制を受けることが出来ます。

①被相続人が先代事業者である場合、相続開始の日の属する年、その前年及びその前々年の確定申告書を青色申告書により提出していること
②被相続人が先代事業者以外の場合、先代事業者の相続開始又は贈与の直前において、先代事業者と生計を一にする親族であり、かつ先代事業者からの贈与又は相続後に開始した相続に係る被相続人であること

3.小規模宅地等の特例と個人版事業承継税制

①小規模宅地等の特例とは

小規模宅地等の特例は、相続等により取得した宅地等のうち被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた一定の宅地等について、一定の面積までの部分につき、その相続税の課税価格を次のとおり減額する特例です。この特例の適用を受けるためには、その宅地等を取得した者が相続税の申告期限まで、その 宅地等を保有し、事業の用又は居住の用に供しているなど、一定の要件を満たす必要があります。

事業用の特定事業用宅地等は400㎡までの範囲で80%の減額、貸付事業用のうち特定同族会社事業用宅地等は400㎡までの範囲で80%の減額、貸付事業用のうち貸付事業用宅地等は200㎡までの範囲で50%の減額、居住用の特定居住用宅地等は330㎡までの範囲で80%の減額を受けることが出来ます。

②個人版事業承継税制との適用関係

先代事業者等に係る相続等により取得した宅地等について小規模宅地等の特例の適用 を受ける者がある場合、その適用を受ける小規模宅地等の区分に応じ、個人版事業承継税制の適用が制限をされます。 特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例を受けた場合は、個人版事業承継税制の適用はありません。

特定同族会社事業用宅地等、貸付事業用宅地等について小規模宅地等の特例を受けた場合は、400㎡から一定の計算方法によって算出された金額を差し引いた金額が、個人版事業承継税制の適用対象となる宅地等の限度面積となります。
特定居住用宅地等について小規模宅地等の特例を受けた場合は、個人版事業承継税制の適用の制限ありません。

4.個人版事業承継税制により相続税の納税を猶予する手順

相続の納税の猶予について個人版事業承継税制を利用するためには、以下の手順で相続を行う必要があります。

①個人事業承継計画の策定、提出

後継者は、先代事業者の事業を確実に承継するための具体的な計画を記載した個人事業承継計画を策定し、税理士、商工会、商工会議所等の認定経営革新等支援機関の所見を記載の上、令和6年3月31日までに都道府県知事に提出し、その確認を受けます。

②相続の開始から相続税の申告期限までの間に円滑化法の適用を受ける

後継者の要件、先代事業者等の要件を満たしていることについての都道府県知事の円滑化法の認定を受けます。 円滑化法の認定を受けるためには、相続開始後8か月以内に申請を行う必要があります。

③相続税の申告期限までの間に開業届の提出、青色申告の承認を受ける

事業承継後、事業の開始の日から1か月以内に開業届を税務署に提出し、先代事業者の相続開始があったことを知った日に応じた期限までに青色申告申請書を提出し青色申告の承認を受けるとともに、相続税の申告期限までに、この制度の適用を受ける旨を記載した相続税の申告書及び一定の書類を税務署へ提出し、一定の担保を提供する必要があります。

青色申告の承認を受ける期限は、死亡時が1月1日から8月31日の間の場合は、死亡の日から4ヶ月以内、9月1日から10月31日の場合はその年の12月31日まで、11月1日から12月31日の場合は翌年の2月15日までです。

④相続税の申告

相続開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、所轄の税務署に相続税の申 告をする必要があります。

⑤相続税の納税猶予

申告後も事業を継続し、特例受贈事業用資産を保有すること等により、納税の猶予が継続されます。

⑥継続届出書の提出

引き続きこの制度の適用を受けるためには継続届出書に一定の書類を添付して3年ごとに所轄の税務署へ提出する必要があります。

5.相続税の申告後、相続税を納付する必要がある場合

上記の手順に従うことで相続税の納付は猶予されますが、以下に該当をする場合は納税が必要になります。

①相続税の全額と利子税の納付が必要な場合

・事業を廃止した場合
・資産管理事業又は性風俗関連特殊営業に該当した場合
・特例事業用資産に係る事業について、その年のその事業に係る事業所得の総収入金額が0となった場合
・青色申告の承認が取り消された場合
・青色申告の承認の申請が却下された場合

②相続税の一部と利子税の納付が必要な場合

・特例事業用資産が事業の用に供されなくなった場合

6.個人版事業承継税制により相続税の納税を免除することが出来る条件

猶予されていた相続税の納税は、後継者の死亡等があった場合には、免除届出書、免除申請書を提出することにより、その死亡等があったときに納税が猶予されている相続税の全部又は一部についてその 納付が免除されます。
以下の場合に免除をすることが出来ます。

①後継者が死亡した場合
②特定申告期限の翌日から5年を経過する日後に、特例事業用資産の全てについて免除対象贈与を行った場合
③事業を継続することができなくなったことについて、やむを得ない理由がある場合
④破産手続開始の決定などがあった場合
⑤事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合において、特例事業用資産の全ての譲渡、事業の廃止をしたとき



7.まとめ

以上のような条件や手順に従うことで、事業の後継者は相続税の納税の猶予、及び後継者が死亡等した場合はその納付の免除が受けられることとなりました。 この個人版事業承継税制の創設により、個人事業の継承についての負担が減少し、より事業を継続しやすくなりました。事業承継を検討している個人事業主やその後継者は、積極的に利用するべきでしょう。
不明な点がございましたら、身近な専門家に相談されることをお勧め致します。

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