新型コロナウイルス感染症の影響により従業員の雇用の維持が難しくなった場合に利用の出来る雇用調整助成金。この雇用調整助成金はどのような場合に受け取ることが出来るのか、また受け取った際の会計処理はどのようにすれば良いのでしょうか。
1.雇用調整助成金とは
雇用調整助成金とは、新型コロナウイルス感染症の影響をはじめとする経済的な事情によって事業活動を縮小せざる得なくなった事業主が、雇用の維持を図るために休業手当に要した費用を助成する制度です。従来からこの制度はありましたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、特例措置が設けられました。
新型コロナウイルス感染症による雇用調整助成金の主な内容は下記の通りです。
①対象となる事業者
新型コロナウイルス感染症の影響により、事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、その雇用する対象労働者の雇用の維持を図るために、労使間の協定に基づき雇用調整を実施する事業主が支給対象となります。事業活動の縮小とは売上高または生産量などの事業活動を示す指標の最近1ケ月間の値が前年同月比5%以上減少していることをいいます。
また労使間の協定は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、ない場合には労働者の過半数を代表する人との間で書面により行う必要があります。
②休業を実施した場合の休業手当または教育訓練を実施した場合の賃金相当額の助成額
対象の従業員1人1日当たり8,330円を限度に、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主が中小企業の場合は4/5、大企業の場合は2/3の助成金が受けられます。また解雇等をしていない等の上乗せの要件を満たす事業主が中小企業の場合には9/10、大企業の場合は3/4の助成金が受けられます。 更に教育訓練が必要な人に教育訓練を実施した事業主が中小企業の場合は2,400円、大企業の場合は1,800円が加算をされて助成金が受けられます。
③助成対象日数
1年間に100日と、緊急対応期間が対象の日数です。緊急対応期間とは令和2年5月現在で令和2年4月1日から6月30日と定められています。④対象従業員
原則として支給の対象となる事業主に雇用されている雇用保険被保険者です。雇用保険被保険者以外は、緊急雇用安定助成金の支給対象となる場合があります。2.従来の雇用調整助成金との違い
新型コロナウイルス感染症が蔓延する以前からこの助成金はありましたが、新型コロナウイルス感染症の影響によるものは従来と比較し利用がしやすくなっています。従来の雇用調整助成金 | 新型コロナウイルス感染症による特例 | |
---|---|---|
事業主について | 経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主 | 新型コロナウイルス感染症の影響を受ける全業種の事業主 |
生産指標要件 | 3ヶ月10%以上低下 | 1ケ月5%以上低下 |
対象者 | 被保険者 | 雇用保険被保険者でない従業員の休業も助成金の対象に含める |
被保険者期間 | 6ヶ月以上 | 被保険者期間要件無し |
残業の取り扱い | 残業相殺 | 残業相殺無し |
教育訓練助成率 | 中小企業2/3、大企業1/2 | 中小企業4/5、大企業2/3 |
支給限度日数 | 1年間100日、3年間150日 | 1年間100日、3年間150日と4月1日~6月30日 |
助成率 | 中小企業2/3、大企業1/2 | 中小企業4/5、大企業2/3 |
計画届の期限 | 計画届は事前提出 | 6/30までに限り計画届の事後提出を認める |
クーリング期間 | 1年間 | クーリング期間無し |
休業要件 | 短時間一斉休業のみ | 短時間休業の要件緩和 |
休業規模要件 | 中小企業1/20、大企業1/15 | 中小企業1/40、大企業1/30 |
3.受給の手続き
具体的な手続きの手順は下記の通りです。手続きに必要な書類は厚生労働省のホームページよりダウンロードをすることが出来ます。①休業計画、労使協定を確認する
雇用調整助成金の対象となる休業であるか、また労使協定を締結しているかを確認します。対象となる休業とは下記の条件を満たすものです。
・労使間の協定によるものであること。
・事業主が自ら指定した対象期間内に行われるものであること。
・判定基礎期間における対象労働者に係る休業の実施日の延日数が、対象労働者に係る所定労働延日数の 中小企業の場合は140、大企業の場合は 130
以上となるものであること。
・休業期間中の休業手当の額が、労働基準法第26条の規定(平均6割以上)に違反していないものであること。
・所定労働日の所定労働時間内において実施されるものであること。
・所定労働日の全1日にわたるもの、または所定労働時間内に当該事業所における部署や部門ごとや、職種や仕事の種類によるまとまり、勤務体制によるまとまりなど
一定のまとまりで行われる1時間以上の短時間休業または一斉に行われる1時間以上の短時間休業であること。
②計画届の提出
計画届を取得し記載し提出を行います。原則として休業実施以前に提出を行いますが、新型コロナウイルス感染症の影響による特例措置のある6月30日までは事後提出も認められています。届出書は休業等実施計画(変更)届 、雇用調整実施事業所の事業活動の状況に関する申出書が必要です。添付書類として生産指標の確認のための書類が必要です。 また確認書類として休業協定書、事業所が中小企業に該当しているか否かの確認等のための書類が必要です。
③休業の実施
事前に計画届を提出している場合には、その計画届に沿った休業を行います。④支給申請
休業の実績に基づき、支給申請をします。申請期限は支給対象期間の末日の翌日から2ヶ月以内です。支給申請書は支給要件確認申立書、役員等一覧、支給申請書、助成額算定書 、休業、教育訓練実績一覧表が必要です。 また確認書類として労働、休日の実績に関する書類 、休業手当、賃金の実績に関する書類が必要です。
⑤労働局の審査
支給申請の内容について、労働局で審査が行われます。⑥支給決定
支給決定額が振込まれます。4.支給決定額が振り込まれた場合の会計処理
①仕訳の方法
支給決定額が振り込まれた場合は、その支給額を収入として計上をします。休業に係った費用と相殺して差額を計上するのではなく、支給額を総額で仕訳を行い、勘定科目は雑収入を使用します。②支給額の消費税の取り扱い
支給額は雑収入として計上を行いますが、この消費税の取り扱いは不課税です。消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供が課税の対象であり、補助金の受取はこれらに該当しないためです。③支給額の法人税の取り扱い
補助金を受け取る事業者が法人である場合、支給額は雑収入として計上を行うと共に、法人税法上も益金として取り扱われるため、売上と同様に法人税の課税対象となります。益金の計上時期は給付の原因となった休業、就業、職業訓練等の事実があった日の属する事業年度です。益金の計上金額は支給決定額ですが、事実があった日の属する事業年度と支給日の属する事業年度が異なる場合には、合理的に見積もった金額を事実があった日の属する事業年度に計上をします。
④支給額の所得税の取り扱い
補助金を受け取る事業者が個人事業主である場合、支給額は雑収入として計上を行うと共に、所得税法上も収入として取り扱われるため、売上と同様に事業所得として所得税の課税対象となります。収入の計上時期は支給がされた事業年度、又は支給通知書が手元に届いた事業年度です。収入の計上金額は支給決定額です。法人税と異なり見積計上はしません。
5.まとめ
雇用調整助成金の内容とその会計処理についてご紹介致しました。新型コロナウイルス感染症の影響により休業を行う場合は、ご参考になさってください。 ご不明な点がございましたら、身近な専門家に相談されることをお勧め致します。関連記事:
『持続化給付金とは?支給対象の要件や給付金を貰った場合の会計処理について』
『新型コロナウイルスによるIT導入補助金!その会計処理とは? 』