まずは基本をチェック ! 重加算税とは
税務調査で指摘される税務処理上の誤りは、会社によって多種多様なのですが、共通する問題点があります。それは「重加算税」です。
重加算税とは、通称「ジューカ」と呼ばれており、払うべき税金が35%も上乗せされ、さらに延滞税(税金の利息部分)が高くなるという、まさにダブルパンチです。
国税庁の最新の発表によると、税務調査で重加算税が課される割合は「20.6%」にもなります。つまり、5件の税務調査が行われると、1件以上に重加算税が課されているのというのが現実なのです。本当に恐ろしいことです。
もちろん本当に「脱税」など悪いことをしていれば、重加算税を課せられて当然、というわけなのですが、税務調査の現場では、そんな悪いことを認識がなくても、「重加算税だ」と調査官から指摘されるケースも多々あるので、細心の注意が必要なポイントです。
では、重加算税を課される要件というのは、どういったものなのでしょうか。ここでは、経営者として最低限知っておくべきことだけを書いておきましょう。
重加算税が課される要件
重加算税が課される要件は、法律で明記されています。簡単にいうと、「隠ぺいまたは仮装」したことです。逆にいうと、「隠ぺいまたは仮装」をしていなければ、重加算税は課されないということです。
まず、「隠ぺいまたは仮装」という言葉から連想される(悪い)行為を想像してみてください。「隠ぺいまたは仮装」という言葉は、考えてみると「故意=わざと」という意味合いを含んでいます。「故意ではない隠ぺい」も「わざとじゃない仮装」もありえないのです。
「隠ぺいまたは仮装」とは漠然とした言葉ですが、これを裁判所はこのように定義しています。
(和歌山地裁昭 52・6.23 判決)
つまり、「わざと」何かを隠すことを「隠ぺい」で、「わざと」何かを書き変えたりすることを「仮装」としています。こう聞くと、確かに悪いことをした会社が、重加算税を課されるのだということが、漠然とでもおわかりいただけると思います。
重加算税の具体事例
重加算税は、税務調査でもっとも問題になりやすい項目であり、かつ法律的にはかなり深い項目でもあるのです。
重加算税が課される条件となる「隠ぺいまたは仮装」を具体的に例示すると、このような行為を指すことになります(あくまでも「例示」であることをお忘れなく)。
(1) 隠ぺい
① 二重帳簿の作成:税務署や税理士に見せる帳簿と、本当の帳簿を分けて作っていた場合
② 売上除外:売上をわざと少なくしていた場合
③ 架空仕入:実際には存在しない仕入を帳簿上あったようにしていた場合
④ 架空経費:実際には存在しない経費を帳簿上あったようにしていた場合
⑤ 棚卸資産の除外:在庫がある会社で、決算時の棚卸を実際により少なくしていた場合
⑥ 雑収入の除外:会社が得る副収入をわざと申告しなかった場合
(2) 仮装
① 取引上の架空名義の使用:存在しない取引先名を使っていた場合
② 通謀虚偽表示:取引先と共謀して、実際には存在しない取引をあるようにみせかける、または金額を変えたような場合
③ 虚偽答弁:調査官の質問に対して嘘の回答をした場合
これらはあくまでも、「こんな悪いことをしていたら重加算税が課されますよ」という例示に過ぎませんが、重加算税が課される要件はおわかりいただけたのではないでしょうか。
さて、ここで非常に重要なことは、あくまでも重加算税の要件は「隠ぺいまたは仮装」の行為をしたということです。調査官がよく「これは不正だから重加算税ですね」という指摘は間違っています。
ただ「不正」をしたから重加算税になるのではなく、あくまでも上記のような「隠ぺいまたは仮装」行為をしたから重加算税になるのです。
また、よくありがちな指摘としては、単純な「誤り」を重加算税だと言われることもありますが、これも重加算税ではありません。例えば、接待交際費をクレジットカードで支払い、クレジットカードの明細書で経費処理したにもかかわらず、店からもらった領収書でも経費処理した場合、これは経費の2重計上となり、調査官は「重加算税ですね」と言ってきます。
しかし、「わざと」経費の2重計上をしたのではなく、ただ単純に誤って経費処理しただけですから、重加算税にはならないのです。
調査官の言い分を鵜呑みにはせず、重加算税の要件を満たしているかどうかだけで判断してください。
また、重加算税と指摘されることが多いが重加算税ではない、というケースも具体的にご説明しておきます。
重加算税にならないケース
上述したように、重加算税の要件は「隠ぺいまたは仮装」なのですが、これでもまだ、「結局のところ、どんなことをしたら重加算税が課されるのかわかりにくい」というわけで、国税庁はホームページで重加算税の要件について、詳しくガイドライン(事務運営指針といいます)を明示しています。
「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」
事務運営指針とは、56,000 人以上もいる国税職員が、税務調査などでバラバラの対応をしてはならないので、国税庁が制定・明示・開示しているもので、調査官全員が「守らなければならないルール」のことです。この事務運営指針には、このように明示されています。
「売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合において、その売上げ等の収入が翌事業年度の収益に計上されていることが確認されたとき。」
難しく書いていますが簡単にいうと、「今期の売上に計上すべきものが、翌期の売上に計上されていた場合は、重加算税を課さない」ということです。
一般的にいう「期ズレ」と呼ばれるもので、売上の計上時期がズレていただけであれば、35%の重加算税は課されないと、はっきり明示されているのです。にもかかわらず、税務調査の現場では期ズレでも重加算税と言われることがあるので要注意です。
また、同じ事務運営指針には、このようにも明示されています。
確定した決算の基礎となった帳簿に、交際費等又は寄附金のように損金算入について制限のある費用を単に他の費用科目に計上している場合。
ただ単純に、勘定科目を間違って税金の計算に誤りがあったような場合も、重加算税は課されないのですが、調査官には同じように重加算税と言われるケースが多いのです。これは明らかに調査官の誤りだというわけです。
重加算税を受けることによる3大デメリット
税務調査において重要なのは「駆け引き=交渉」です。何も税務署とモメることがいいわけではありません。税務調査が長引くのは誰でも嫌ですし、モメて得することがないのもまた事実ですから。
しかし、税務調査において譲れないポイントがあるとすれば、それはやはり重加算税です。なぜなら、重加算税には3つの大きなデメリットがあるからです。
① 35%の重加算税
税務調査の結果として誤りが見つかり、修正申告になったとすれば、通常10%の加算税が課されます。これを過少申告加算税といいます。つまり、誤っていたのだから、罰則的な10%を追加的に払わなければならない、というわけです。
しかし、重加算税となると、10%ではなく「35%」の税率に上がります。つまり、重加算税だと追徴税額が25%増しになるのです。
② 延滞税
ここは気付いていない人が多いのですが、重加算税になると実は延滞税が一気に高くなります。
延滞税は税金の納付が遅れたという意味合いで、利子と同じ効力をもつものなのですが、実際は計算上1年分のみ課される(特例)ことになっています。
しかし、重加算税の場合はこの特例計算ができないため、延滞税が非常に高くなるのです。
③ 以後の税務調査に影響する
支払う追徴税額は①②を合わせた分だけ多くなるのですが、さらに、重加算税を課されると、それ以降税務調査に入られやすくなります。
これは税務署が、過去に重加算税を課した会社や個人事業主をマークしているからに他なりません。重加算税を課されたということは、過去に税金を「わざと誤魔化していた」という事実の認定なのですから、当然といえば当然の顛末かもしれません。
税務調査が早く終わるからといって、安易に重加算税を受け入れるべきではない理由がおわかりいただけたかと思います。
このようなデメリットをきちんと知ったうえで、税務調査に臨む必要があるというわけです。
まとめ
税務調査の場で調査員に対して強く意見を言うことは怖いかもしれませんが、重加算税は多くのデメリットがあるので、指摘されたとしても冷静に判断をすることが大切です。
税務調査に税理士が立ち会うことも可能ですので、不安な場合は税理士にご相談されることをおすすめします。