消費税は基準期間の課税売上高が1,000万円以下の免税事業者であっても、届け出を行うことで課税事業者になることが出来ます。また、届け出により課税事業者になった免税事業者が、再び免税事業者に戻ることも出来ます。
この手続きには一定の制限がありましたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、制限が緩和されました。
今回はこの緩和された消費税の課税選択の変更に係る特例についてご紹介致します。
- 1.免税事業者とは
- 2.免税事業者が課税事業者を選択するメリット
- 3.消費税の課税選択の変更に係る特例
- 4.消費税の課税選択の変更に係る特例を利用出来る事業者とは
- 5.消費税の課税選択の変更に係る特例の適用方法
- 6.まとめ
1.免税事業者とは
消費税の免税事業者とは、消費税の納める義務のない事業者で、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者をいいます。基準期間とは、個人の場合は前々年の課税売上高、法人の場合は原則として前々事業年度の課税売上高のことです。基準期間が1年でない法人の場合は、原則として1年相当に換算した金額により判定します。
課税売上高とは輸出などの免税取引を含め、返品、値引き、割戻しをした対価の返還等の金額を差し引いた税抜価額です。
基準期間において免税事業者であった場合には、その基準期間中の課税売上高には、消費税が含まれていないため、基準期間における課税売上高を計算するときには税抜処理は行いません。
2.免税事業者が課税事業者を選択するメリット
免税事業者は消費税の納付が無いことから、納付資金を準備する必要が無い、消費税の申告書を作成しなくて良い、会計処理の際に消費税に留意する必要が無い等、資金面、事務処理面において、課税事業者よりも負担が少ないものです。しかし免税事業者と比較し、課税事業者の方が有利な場合もあります。主な課税事業者の方が有利な場合とは下記のものです。
①消費税の還付を受ける場合
消費税の還付とは課税売上による受け取った消費税よりも、課税仕入による支払った消費税の方が多い場合に、受け取った消費税と支払った消費税の差額を国から返してもらえるというものです。例えば課税売上が税込110万円、課税仕入が税込220万円の場合、受け取った消費税は10万円、支払った消費税は20万円であるため、この差額の10万円が還付を受けることが出来ます。
上記の例の事業者の収入が全て課税売上であるとすると、この事業者は課税売上が課税仕入よりも価額が低いことから、利益が出ていません。このように赤字の事業者は消費税の還付を受けられる場合が多くあります。
昨今の新型コロナウイルス感染症の影響により、売上が減少し赤字が見込まれる免税事業者は、課税事業者になることで消費税の還付を受けられる可能性があります。
しかしこの消費税の還付を受けるためには、課税事業者である必要があります。よって消費税の還付を受けられそうな、利益が出ないと見込まれる事業年度については、免税事業者であっても課税事業者になった方が有利であるといえます。
②インボイス制度に適応する場合
インボイス制度とは令和5年10月1日より導入される、適格請求書保存方式です。この制度では支払った消費税として算入できる対象取引は、売り手側が税務署長に申請を行い、登録を受けた課税事業者である適格請求書発行事業者であり、かつその適格請求書発行事業者が発行した適格請求書に記載された取引のみが対象の取引となります。
つまりインボイス制度が導入されると免税事業者の発行する領収書では、買い手側が支払った消費税として取り扱うことが出来なくなり、同じものを同じ税込金額で購入する場合は、課税事業者から購入を行った方が消費税の納税額の計算上有利となります。
このことから、免税事業者は取引継続や販路拡大において不利になってしまい、免税事業者であっても課税事業者になった方が有利であるといえます。
3.消費税の課税選択の変更に係る特例
免税事業者が課税事業者になるための手続きは、届け出を行うことで課税事業者になることが出来ます。また、届け出により課税事業者になった免税事業者が、再び免税事業者に戻ることも出来ます。この届出書の効力は、提出した日の属する課税期間の翌課税期間から生じることから、提出期限は課税事業者となることを選択しようとする課税期間の初日の前日でした。
しかし、新型コロナウイルス感染症等の影響により事業としての収入の著しい減少があった事業者については、納税地の所轄税務署長の承認を受けることで、特定課税期間以後の課税期間について、課税期間の開始後であっても、課税事業者を選択する、又は選択をやめることが出来ます。
特定課税期間とは、新型コロナウイルス感染症等の影響により事業としての収入の著しい減少があった期間内の日を含む課税期間をいいます。
4.消費税の課税選択の変更に係る特例を利用出来る事業者とは
この特例を利用することの出来る事業者は、新型コロナウイルス感染症等の影響により、令和2年2月1日から令和3年1月31日までの間のうち任意の連続した1か月以上の期間の事業としての収入金額が、前年の同時期と比べて、概ね50%以上減少している事業者です。収入金額の判定は、事業者の事業上の売上その他の経常的な収入の額を含めますが、各種給付金など臨時的な収入は含めません。また、新型コロナウイルス感染症等の影響により、事業者が収入すべき対価の額を減免又は猶予した場合のその減免額又は猶予額についても収入金額に含めません。
事業開始1年未満であることにより、前年同時期との比較ができない場合は、令和2年1月以前で令和2年2月1日から令和3年1月31 日までの間のうち任意の連続した1か月以上の期間の収入金額と比較する期間として適当と認められる期間を比較対象とすることが出来ます。
年間収入しか集計していない等、令和2年2月1日から令和3年1月31日までの間のうち任意の連続した1か月以上の期間に対応する期間の収入金額が不明な場合は、令和2年2月1日から令和3年1月31日までの間のうち任意の連続した1か月以上の期間に対応する期間の直前1年間の収入金額を12で除し、これを割り当てる方法その他適当な方法により算定した金額を比較対象とすることが出来ます。
5.消費税の課税選択の変更に係る特例の適用方法
特例の承認を受けようとする場合、下記の書類の提出が必要です。
・新型コロナ税特法第10条第1項(第3項)の規定に基づく課税事業者選択(不適用)届出に係る特例承認申請書
・新型コロナウイルス感染症等の影響 により事業としての収入の著しい減少があったことを確認できる書類
・消費税課税事業者選択(不適用)届出書
申請期限は、課税事業者を選択する場合は新型コロナウイルス感染症等の影響により事業としての収入の著しい減少があった期間内の日を含む課税期間の末日から2ヶ月以内、課税事業者の選択をやめる場合は税事業者を選択する場合は新型コロナウイルス感染症等の影響により事業としての収入の著しい減少があった期間内の日を含む課税期間の確定申告書の提出期限と同様の期限です。
6.まとめ
上記のように、新型コロナウイルス感染症の影響により売上が減少し赤字が見込まれる免税事業者は、課税事業者になることで消費税の還付を受けられる可能性があることから、この特例を利用することを検討する価値は大いにあるといえるでしょう。ご不明な点がございましたら、身近な専門家に相談されることをお勧め致します。