不動産賃貸業を行う個人事業主の所得は不動産所得となります。しかしこの所得の事業的規模の該当の可否によって、不動産所得の計算過程の違いにより、算出される所得額や納税額が異なります。
今回は、不動産所得における事業的規模の判定方法と、所得の計算過程の違いについてご紹介致します。
1.不動産所得における事業的規模とは
不動産所得における事業的規模の所得とは、その貸付が事業的に行っていると認められるものをさし、原則として社会通念上で事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって、実質的に判断します。しかし建物の貸付けについては、下記のいずれかに当てはまる場合には事業的規模であると判断をすることが出来ます。
①貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること
②独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること
2.実質的な判断とは
実質的な判断は、下記の点等を総合的に考慮して、事業的規模であるかについて判断をします。
①営利性、有償性の有無
②継続性、反復性の有無
③自己の危険と計算における事業遂行性の有無
④取引に費やした精神的、肉体的労力の程度
⑤人的、物的設備の有無
⑥取引の目的
⑦不動産所得者の職歴、社会的地位、生活状況
3.所得計算過程の違い
事業的規模に該当をすることで、事業的規模に該当をしない場合よりも下記の点で所得計算過程が異なります。事業的規模に該当をする方が青色申告特別控除 の金額が多い、経費として算入することが出来る項目や金額が多い等の不動産所得者にとって有利な取り扱いを受けることが出来ます。①青色申告特別控除
事業的規模に該当をする不動産所得者は、青色申告特別控除として正規の簿記の原則による記帳を行う、期限内に申告書の提出を行う等の一定の要件を満たすことにより最高55万円の控除を受けることが出来ます。また55万円の控除を受けることが出来る不動産所得者のうち、電子帳簿保存又はe-Taxによる電子申告を行っている場合は、65万円の青色申告特別控除を受けることが出来ます。一方で事業的規模に該当をしない不動産所得者は、青色申告特別控除として受けられる控除金額は10万円です。
②青色専従者給与
事業的規模に該当をする不動産所得者は、青色専従者給与を経費として計上をすることが出来ます。青色専従者給与とは、青色申告者の15歳以上の青色申告者と生計を一にする配偶者やその他の親族が6ヶ月以上不動産賃貸業に専従を行った場合に、その配偶者や親族に支給される給与のことです。 一方で事業的規模に該当をしない不動産所得者は、青色専従者給与を経費として計上をすることが出来ません。③貸倒損失
事業的規模に該当をする不動産所得者は、貸倒損失を経費として計上をすることが出来ます。貸倒損失とは、賃貸料等の回収不能等によって生じる損失のことです。一方で事業的規模に該当をしない不動産所得者は、貸倒損失を経費として計上をすることが出来ません。
④固定資産除却損
事業的規模に該当をする不動産所得者は、固定資産除却損の全額を経費として計上をすることが出来ます。固定資産除却損とは、賃貸用固定資産の取壊し、除却等によって生じる損失のことです。一方で事業的規模に該当をしない不動産所得者は、固定資産除却損のうち経費として計上をすることが出来る金額は、その年分の資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度としたものです。