公益法人にもガバナンス強化の波
税務・財務


令和2年12月に、内閣府の「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」により「公益法人のガバナンスの更なる強化等のために(最終とりまとめ)」が公表されています。令和元年12月に第1回の有識者会議が開催されてから約1年間議論を重ねたうえで、事例も交えた提言としてとりまとめられています。

この記事の目次

1.はじめに

現行の公益法人制度は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」等のいわゆる「公益法人制度改革三法」が平成20年12月に施行され適用されている。
それ以来10年超経過し、定着が進む一方で、ガバナンスの不全による不祥事が複数発生しており、公益法人制度の社会的信用が失われ、他の公益法人への影響も懸念される。
この提言では、公益法人のガバナンスに関する基本認識と改善の方向性が述べられている。

2.基本認識

(1)公益法人に求められる「ガバナンス」とは何か

以下の3つの要素が成り立つとき、公益法人の運営に「ガバナンスが効いている」といえる。

①法令遵守に加え、相応しい規範を定め明らかにし、守る。
②①に加え、法人の担い手全員が、役割を適切に果たしていると認められるように行動し、かつ説明責任を果たす。
③不祥事の予防・発見・事後対応の仕組みが確立している。



(2)なぜ今ガバナンスの強化が必要か

公益法人は公益認定を受けることにより、税制上の優遇措置の適用を受けることができ、「公益社団法人」又は「公益財団法人」という名称を独占的に使用できることで、寄附等の社会的支援が受けやすくなる特徴を持つ。したがって、公益法人にガバナンスが効いてこそ、国民は安んじて寄附その他の支援を法人に行うことができる。

また近年、上場会社等への社外取締役の選任の義務付けや、社会福祉法人の一定事業規模以上の外部監査の義務付けなど、ガバナンスの強化に向けた制度改正が行われており、公益法人においてもこのような動向を踏まえることが必要である。

3.公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する論点と取組の方向性

(1)役員や社員・評議員のより一層の機能発揮

①役員や評議員における多様な視点の確保
理事や評議員が法人の組織やその事業に関わってきた「身内」ばかりで占められ、効果的な牽制が働かず特定の者による違法・不当な行為が生じた事例がある。

方策としては、理事、監事及び評議員のうち、それぞれ、少なくとも一人については、法人外部の人材から選任することが有効である。
(注)下線部分は、「公益法人のガバナンスの更なる強化等のために(最終とりまとめ)」の下線の通り(以下同様)。

②役員に対する社員・評議員の牽制機能の強化
役員に対する牽制機能の強化の観点から、社会福祉法人では、評議員の人数は定款で定めた理事の人数を超える数でなければならないとされている。
公益法人においても社員及び評議員の人数を定款で定めた理事の人数を超えるものとするなど一定の人員を確保することは有効である。

③評議員による役員等の責任追及の訴えの提起
社員総会、評議員会はいずれも、定款変更の決議、理事・監事の選解任、計算書類の承認、理事の法令・定款違反に対する差止請求などの権限が付与されている。

ただし、社団法人の社員が、法人を代表して役員等の責任を追及する訴えを提起することができる一方で、財団法人の評議員についてはこの仕組みがない。理事等の違法行為を抑制するためにも、公益財団法人の評議員にも、公益社団法人の社員と同様に、役員等の責任追及の訴えを提起できる権限を付与される方向で検討すべきである。

(2)会計監査人の設置義務付け範囲の拡大

①会計監査人による監査の意義
会計監査人の設置は公益認定の基準であるが、費用負担があるため、以下の基準に達する法人にのみ義務付けることが適当とされている。

〇公益社団法人・公益財団法人
・正味財産増減計算書の収益の部の合計額が1,000億円以上
・正味財産増減計算書の費用及び損失の部の合計額が1,000億円以上
・貸借対照表の負債の部の合計額が50億円以上

〇一般社団法人・一般財団法人
・貸借対照表の負債の部の合計額が200億円以上


会計監査人が設置されていない法人において、会計事務が特定の理事や職員に委ねられ、日常的な牽制機能の欠如もあり、不適切な処理や不正が発生し、公益認定の取り消しや、多数の利用者に損害を与える事態にまで発展した事例も生じている。

このような事例は、会計監査人からの指導や、監査を受けなければならない牽制効果により防止できた可能性があったものと考えられる。

②会計監査人の設置義務付け範囲
平成30年時点の公益法人の会計監査人の設置状況は以下の通りである。また経年でみるとほぼ変わらずに推移している。
区分 法人数 全体に占める割合
全体 9,561法人 100.0%
会計監査人設置 350法人 3.7%
(うち、義務付け要件該当法人) (164法人) (1.7%)


なお、社会福祉法人の会計監査人設置基準は、以下のとおりである。
・収益30億円超又は負債60億円超(ただし、関係者の制度への理解が進み、体制が整備されるに伴い、将来収益10億円超又は負債20億円超にまで段階的に引き下げられる。)
このような他の非営利法人の動向も考慮して、会計監査人の設置義務付け範囲を拡大すべきである。

③補助金等の受給と外部監査
一定規模以上の補助金等を受給している場合には、義務付け要件に達していなくても何等かの外部監査を受けるのは当然という意見や、既に補助金検査や所管課の監査等を受けているという指摘もあった。
公益法人の補助金等の受給状況を注視し、問題の発生状況に応じ、会計監査人の設置の義務付けについて、引き続き検討することとすべきである。

(3)透明性の確保の推進

ポータルサイト「公益法人information」を通じて請求すれば、誰でも定款、社員・評議員・理事・監事の名簿、事業報告書、計算書類、事業予算書、収支予算書などの書類を閲覧することができるが、「請求」という手続きを経なくても上記のポータルサイトで直ちに閲覧することができるようにすべきである。

(4)法人による自主的な取組の促進・支援

ガバナンス強化の成否は、法人の担い手全員が、それぞれの役割と責任を自覚し、これらを実践するかどうかにかかっている。 そのために、行政は、例えば以下の方法により、法人のガバナンス強化に向けた自主的な取組を支援すべきである。

①優良事例の収集・紹介(ガバナンスの確保を図るための行動準則(チャリティ・ガバナンス・コード)の事例、執行部と社員・評議員が日常的に意見交換し円滑な意思疎通を図っている事例、外部人材として選任された者も含め適切なガバナンスの確保を図っている事例)

②動機付け(自主的に会計監査人を設置する法人について、立入検査の必要性を判断、行動準則の策定状況、自己点検結果及び不遵守の理由、今後の取組への姿勢等をポータルサイトに公表する仕組みの整備)

③公益法人が開催する行動準則を策定するための会議へのオブザーバ参加、実務上の助言、会議場所の提供など、行政庁は法人からの求めに積極的に対応


(5)残余の財産への行政庁の関与

法人が公益認定を取り消され、又は解散することになった場合に、残余財産が理事など特定の者に不当に分配されることなく、引き続き公益増進のために活用されることの担保。
なお、公益認定の取消し等や、解散の際の残余財産の額や帰属先については、現行の届出のままで良いか、新たな措置が必要か、検討が必要である。

まとめ

ガバナンス強化については、上場企業におけるコーポレート・ガバナンス・コードがあり、非営利法人においても、たとえば私立大学のガバナンス・コードの策定の促進が取り上げられるなど、種々の組織体で検討又は実施されている。
このとりまとめに記載されていることを参考にして、公益法人のガバナンスの強化を強化し、公益法人が「民による公益」を担う中心的な存在としてあり続けていただくことを願いたい。

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