社会福祉法人の組織再編に関する会計処理が定まり令和3年4月1日から適用されています
税務・財務


「『社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の取扱いについて(以下、「運用上の取扱い」という。)』の一部改正について」が、厚生労働省から令和2年9月11日に発出され、令和3年4月1日から適用されることになりました。
これにより社会福祉法人会計基準の組織再編に関する会計処理が明らかになっています。また同改定に係るQ&A(以下、「Q&A」という。)が令和3年3月26日に通知されました。

この記事の目次

1.社会福祉法人における組織再編

組織再編は、一般的に、①合併、②事業譲渡等、③分割、④子法人の所有が考えられますが、社会福祉法人であることを踏まえると以下のように整理されます。

組織再編の種類 実施の可否 会計処理
合併(新設・吸収)
(法に手続規定あり)(注)
検討が必要
事業譲渡等(事業の譲受け及び事業の譲渡)
(組織法上の行為ではないため、法に手続規定はないが、取引法上の行為のため、合意・契約により実施可)
検討が必要
分割 ×
(法に手続規定がなく、組織法上の行為としては実施不可)
-
(検討不要)
子法人の保有(連結決算) ×
(制度上、子法人保有を認めていないため実施不可)
-
(検討不要)

(注)社会福祉法(以下、「法」という。)第六節第三款 合併(第48条から第55条)
※出所:厚生労働省所管社会福祉法人会計基準検討会(以下、「会計基準検討会」という。))第6回(2020年2月26日開催)資料

したがって、運用上の取扱いでは、合併と事業譲渡等の会計処理について整理をしています。

2.合併又は事情譲受の会計処理

運用上の取扱いでは、組織再編の会計処理を行うにあたり、まず複数の組織が結合する時の経済的な実態が「統合」か「取得」かの判定を行います。次に「結合」又は「取得」の場合の会計処理を示しています(運用上の取扱い20(1)から20(3))。

形態 定義 結合組織の会計処理(結合される組織(被結合組織)の負債及び負債の受入価額)
統合 結合の当事者のいずれもが、他の法人を構成する事業の支配を獲得したと認められない場合 結合時の適正な帳簿価額
取得 ある法人が、他の法人を構成する事業の支配を獲得する場合 結合時の公正な評価額

また、ここで、「支配」とは、「結合の当事者の一方が福祉サービスの提供を継続するために事業の財務及び経営方針を左右する能力を有している」ことを言い(運用上の取扱い20(1))、企業会計の組織再編における「支配」の定義とほぼ同定義となっています。

なお、基本的には、被結合組織において結合日前日における決算手続を行い、結合時の適正な帳簿価額を引き継ぐことになります。ただし、被結合組織の期首から結合時までに重要な取引が行われておらず結合組織の財務への影響が限定的である場合には、期首に結合が行われたとみなして、期首の適正な帳簿価額を引き継ぐことも可能としています(Q&A問1及び答)。

以上を踏まえたうえで、合併又は事業の譲受けが「結合」か「取得」かの判定を行うことによりそれぞれが採用すべき会計処理を示しています(運用上の取扱い20(4))。

結合の手法 取扱い 理由
合併 統合 持分がないため対価が支払われることはなく、結合当事者の一方が他方の事業の支配を獲得することが想定されないため
事業の譲受け 原則として取得 事業の価値に見合った対価の受け払いがある場合、事業に対する支配を獲得したと認められるため

出所:会計基準検討会第6回(2020年2月26日開催)資料を筆者一部加筆

なお、事業の譲受けにあたって、結合組織が事業の財務及び経営方針を左右する能力を有せず、事業の支配を獲得していないと解される場合は、「統合」と判定される可能性があるとしています(Q&A問2及び答)。

組織再編のその他の会計処理は以下の通りです。

Q&A 項目 会計処理
問3及び答
(統合のケース)
被結合組織の過去の誤謬の修正 結合組織への引き継ぎ前に修正
問3及び答
(統合のケース)
会計方針の統一 結合組織への引き継ぎ後に勘定科目残高を修正
問4及び答
(統合のケース)
基本金及び国庫補助金等特別積立金の引き継ぎ それぞれ帳簿価額で引き継ぎ
問5及び答
(事業の譲渡のケース)
譲渡資産・負債の純額と受取対価の差額 損益処理
問5及び答
(事業の譲渡のケース)
基本金の取り崩し 事業廃止かつ固定資産廃棄等を伴い、要件に該当する場合は取り崩し(注)
(注)運用上の取扱い12「基本金の取崩しについて」に従い取り崩す。

3.合併及び事業譲渡等の注記

組織再編の計算書類の注記は次のようになります(運用上の取扱い20(5))。

注記の項目 合併 事業の譲渡 事業の譲受け
①概要
a組織再編の相手先の名称及び事業の内容
b組織再編を行った主な理由
c組織再編日
dその他
aからc
d種類(吸収合併又は新設合併)、吸収合併の場合の合併存続法人の名称
aからc aからc
②採用した会計処理
③計算書類に含まれている相手先の業績の期間
④相手先の対象事業の拠点区分、資産及び負債の額並びにその主な内訳
⑤消滅法人において、期首から合併日直前までに役員及び評議員に支払った又は支払うこととなった金銭の額とその内容 - -


まとめ

社会福祉法人の特性により、企業の組織再編の会計処理とは異なる一部会計処理を採用しています。
社会福祉法人の組織再編の実例はまだ少ないと思われますが、社会の変革に合わせ今後の増加も見込まれます。今後は上記の運用上の取扱いにより会計処理を行っていくこととなりますが、いろいろなパターンが起きる可能性もあり実務的には悩ましい事項が生じることも予想されます。

したがって、組織再編を検討されている場合、法人内だけではなく、所轄官庁や、会計、税務、法務等の専門家に相談したうえで適切に対処することが望まれます。

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