非財務情報の充実と情報の結合性に関する実務を踏まえた考察
税務・財務

「非財務情報の充実と情報の結合性に関する実務を踏まえた考察」(研究資料)が、日本公認会計士協会から公表されました。

この記事の目次

はじめに

2021年4月15日に日本公認会計士協会から、会計制度委員会研究資料第6号「非財務情報の充実と情報の結合性に関する実務を踏まえた考察(以下、「研究資料第6号」という。)」が公表されました。
近年、制度開示・自主開示について、特に非財務情報の開示の充実に向けた取組が進展しています。

背景には、①「企業内容の開示に関する内閣府令」、「記述情報の開示に関する原則」及び「記述情報の開示の好事例集」などにより、有価証券報告書における非財務情報(記述情報)の開示が充実している、②投資意思決定には、非財務情報も含めて価値創造の全体像を理解するための情報が不可欠である、③財務情報と非財務情報が有機的結合性を持ち、価値創造の理解に資するストーリー性ある開示が期待されている、ことがあります。

研究資料第6号は、開示情報の有用性を高める要素として、「情報の結合性」に焦点を当て、結合性を高めることの意義とその重要性について考察しています。
以下に、研究資料第6号の概要を記載します。

Ⅰ 情報の結合性に関する考察

1.企業情報開示における結合性がなぜ求められるのか

情報開示における結合性が必要な理由として以下の3点を記載しています。

(1)企業の価値創造ストーリーの伝達
企業報告において、企業の価値創造ストーリーを伝達することの重要性が高まっています。自社の強みや外部環境の変化の状況を踏まえ、将来に向けてどのような価値を創造し、どのように企業価値を高めていくか、リスクに対してどのように対処していくかといった未来志向の包括的な情報開示が求められています。

(2)非財務情報による財務情報コンテクスト(関連データ)の提供
利用者である投資家は、財務情報をそのまま利用するのではなく、ビジネスモデル、戦略、当年度に発生した事象や企業の経営行動や判断についての背景の理解に基づき、自らの企業価値評価モデルに活用しています。
非財務情報のうち、戦略やリスクといった将来志向の情報は、財務情報の先行情報としての性格を有しています。またいわゆる会計上の見積りは、将来志向の情報としての性格も併せ持っており、非財務情報として開示される経営環境認識、経営戦略及びリスク認識との相互一貫性が求められます。

(3)財務・非財務のKPI(重要な業績評価指標)による多角的実績の提示
MD&A(経営者による財政状態及び経営成績の検討と分析)や財務KPI、Non-GAAP 指標(経営者業績指標)など多角的実績が提示される中、財務諸表との整合性を確保するとともに、相互関連性を説明することの重要性が増しています。 また、業績連動型の報酬を採用している場合、特に財務・非財務の KPI とどのように関連しているかが重要な情報となっています。

2.結合性強化のための枠組み

1を踏まえて、結合性を高める企業報告を以下の4つの側面から整理しています。

(1)ビジネスモデルと経営戦略を軸とする結合性
ここでは、以下がポイントとなります。
・企業のビジネスモデルと経営戦略を軸とする情報の体系化
・資源配分と資本政策に関する戦略(※)
・ガバナンス体制や役員報酬制度の設計と、企業が目指す方向性や戦略との整合性

(※)日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第 59 号「長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告~非財務情報に焦点を当てた検討~」(以下、「研究報告第59号」という。)P2 企業価値の財務的評価につながる開示のポイントの一部

また、研究資料第6号では、研究報告第59号の「企業価値の財務的評価につながる情報開示」の以下の図表を参考として掲げています。

【図表1】企業価値の財務的評価につながる情報開示

出典:研究報告第 59 号

(2)情報の要素・項目間の結合性
ここでは、結合すべき例を示しています。

・ビジネスモデルやリスク認識と、外部環境及びその変化に関する認識
・業績評価のための情報(MD&A)と、KPI及び外部環境や戦略の進捗に関する認識と評価

【図表2】情報の要素・項目間の結合性

出典:研究資料第6号

(3)財務情報と非財務情報の結合性
ここでは、以下がポイントとなります。

・ビジネスモデル、戦略、リスクに関して、財務・非財務情報を組み合わせて効果的に説明すること
・非財務情報のうち、戦略やリスクといった将来志向の情報は、財務情報の先行情報としての性格を有していること。またいわゆる会計上の見積りは、将来志向の情報を基礎とするものであり、情報の時間軸を考慮しつつ、財務・非財務情報の結合性を高めていくこと
・現在の外部環境、戦略(進行中の中期計画など)、MD&A、非財務 KPI ついては、財務実績と整合的かつ適切に関連付けされた開示が求められること

【図表3】時間軸を考慮した財務情報・非財務情報の結合性
出典:研究資料第6号

(4)定量KPI(評価)と定性的な記述情報の結合性
ここでは、結合すべき例をいくつか示しています。

・KPIは、当該実績及び経営者による分析、評価により、利用者が戦略の進捗や業績の理解を深め、評価に反映する手助けとなること
・財務業績だけでなく、非財務面の実績を表すKPIにも、分析の対象を拡張すること
・戦略等に関する定性的な記述は、過去の実績情報や定量的なデータを基礎とすることで、その説得力を高めることにつながること
・役員報酬における KPI 実績との連動性について、制度設計の背景にある考え方と当年度実績の説明が求められること

Ⅱ 開示例の分析

Ⅰの考察を基に、開示が充実していると考えられる4社(国内2社、海外2社)の2019年度の開示内容を抽出し、分析を行っています。

【図表4】結合性の側面と各事例の関係
1.ビジネスモデルと経営戦略を軸とする結合性 2.情報の要素・項目間の結合性 3.財務情報と非財務情報の結合性 4.定量 KPI(評価)と定性記述の結合性
(1) 味の素株式会社(味の素グループ)
(2) カルビー株式会社
(3) ユニリーバ(Unilever plc:英国)
(4) BASF(BASF SE:ドイツ

出典:研究資料第6号【図表5】を筆者加筆

分析の結果、結合性の上記4つの側面が開示に組み込まれていることで、価値創造ストーリーを分かりやすく伝達することに成功しているとしています。

Ⅲ 結合性に関する実務上のヒント

実務に生かす場合に考えられる取組のヒントは以下の通りです。

(1)開示後の「対話」・「意思決定改善」への注力


開示は目的ではなく手段です。真の開示の意義は、対話や意思決定に生かすことです。

(2)結合性を確認し、より強くするための実務上の工夫

結合性を確認し持続的に改善するために、実務として着手し得るテーマを考察しています。

①コミュニケーション・ギャップの認識と解消
「伝える」ことと、「伝わっていること」は、必ずしも一致しません。片方向のコミュニケーションではなく、双方向のコミュニケーションを行うことで、コミュニケーションのギャップを認識し解消するように心がけましょう。

②統合思考の定着と進化
当初は、社内の各部門が縦割りで原稿を準備し、それを1つに取りまとめるという実務も多く、統合報告ではなくコンバインドレポート(財務・非財務情報の合冊)ではないかと思われるような開示書類が散見されました。
その後、実務の変化や進歩がありましたが、以下の領域では今後も持続的な改善が期待されています。
・ 財務・非財務、短期・中期・長期、リスク・リターン・ソーシャルインパクト等を織り交ぜた「統合思考」の定着
・ 結合性を阻害する要因が、開示の作成プロセスや体制に潜む可能性
・ 企業グループや世代といった要因が、結合性を高める上での阻害要因となる可能性
結合性を持続的に高める上では、統合思考の定着と進化が鍵になります。

③AIの活用やその準備
「AI が分析し、人間が保証する。AI が開示し、人間が対話する。」という時代がやってきます。可読性(Readability)・信頼性を大切にして、開示している価値創造ストーリーとデータ開示をより一層整合させることが重要です。

まとめ

研究資料第6号は、情報の結合性について、その必要性を整理するとともに、結合性の強化のための枠組みを提案しています。
また、情報の結合性は開示された情報の有用性を高めるだけでなく、開示された各情報に論理的な整合性や首尾一貫性が求められるため、信頼性を高める効果もあると指摘しています。なお、非財務情報の充実においては、量的な充実だけでなく、質的な充実も重要とも指摘しています。

研究資料第6号は公認会計士協会から公表されていますが、公認会計士はもとより企業情報の開示実務に取り組む関係者の皆様が参考とされ、開示実務に寄与することを期待しています。

以下、リンク先です。
会計制度委員会研究資料第6号「非財務情報の充実と情報の結合性に関する実務を踏まえた考察」の公表について

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