監査提言集(一般用)2021年度版の公表
税務・財務


2021年7月1日、日本公認会計士協会から「監査提言集(一般用)」2021年度版が公表されました。 日本公認会計士協会は、会員の監査業務等の改善のために監査提言集を2008年から毎年公表し、会員・準会員に送付しています。

また、会員以外の一般の方には、「監査提言集」におけるポイント、事例の概要等を集約した「監査提言集(一般用)」を日本公認会計士協会ウェブサイトに公表しています。
以下、2021年度版のポイントを記載します。

この記事の目次

(1)17の提言

冒頭に17の提言が記載されています。いずれも重要な提言ですが、あえてそのなかから5つご紹介します。

1.リスク・アプローチに基づく監査においては、リスクの適切な識別・評価が決定的に重要である。
3.重要な虚偽表示リスクは、常時変化しているため、変化を見過ごさない。
5.新規事業等への参入は、新たな重要な虚偽表示リスクを生み出すことがあることを理解する。
11 .契約書等の証憑が揃っていることと取引が実在することとは必ずしも同じでない場合があることを理解する。入出金の事実も過信しない。
15 .連結子会社等にも虚偽表示リスクは親会社と同様に存在する。グループ全体と構成単位の環境の理解を深める。


(2)8つの章

監査提言集は、第Ⅰ章から第Ⅷ章までで構成されています。この構成は前年度から変更がありません。

第Ⅰ章 リスク評価及び評価したリスクへの対応
第Ⅱ章 会計上の見積りの監査
第Ⅲ章 継続企業
第Ⅳ章 他者の作業の利用
第Ⅴ章 四半期レビュー
第Ⅵ章 監査の結論及び報告
第Ⅶ章 監査人の交代
第Ⅷ章 その他


(3)当年度の新規掲載

当年度の新規掲載は、Ⅱ-1、Ⅱ-9、Ⅱ-10、Ⅱ-11及びⅥ-5となっています。
①Ⅱ-1 工事の進捗度に関連するコスト総額の見積り誤り
事例の概要 履行義務の充足に係る進捗度をインプット法により見積り、当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識する方法を採用している会社において、 コスト総額の見積額に含まれていた費用削減策が実態と大きく乖離しており、工事収益に大きな影響を与えた。
ポイント ○進捗度の見積り及びその一要素であるコスト総額の見積りは、通常、重要 な虚偽表示リスクを識別する。
○見積りの測定方法及び重要な仮定の合理性について、十分かつ適切な監査証拠を入手する。
筆者コメント 進捗度はとかく恣意性が入りやすいので留意が必要と思われます。

②Ⅱ-9 減損の兆候判定資料の操作による減損回避
事例の概要 多店舗展開する会社は、システム出力された減損兆候判定のスプレッドシー トを不正に手作業で書き換えることで、減損を回避した。
ポイント システムによって作成・出力された情報であっても、出力後に手作業が介入する可能性がある。企業が作成した情報の正確性と網羅性を評価する際に、この点を考慮する必要がある。
筆者コメント 表計算ソフトで作成されたスプレッドシートを始め、システムから出力された結果はそのまま鵜呑みにしがちですが、操作することは可能であり、特に判定が微妙な店舗の数字は気を付ける必要があると思われます。

③Ⅱ-10 十分な情報が得られない場合ののれんの評価
事例の概要 新規に取得した海外子会社においてのれんを計上した直後に、現地混乱により財務情報等が得られない中で全額減損損失を計上した。
ポイント 損失処理を行うことが必ずしも合理的な見積りの結果ではない。その場合に も、重要な仮定の合理性や、見積りの不確実性の影響を適切に検討する。
筆者コメント 財務情報等が十分ではないなか、監査期日もあり保守的に損失処理を行うことを考えてしまうかもしれませんが、重要な項目については、監査意見への影響を検討し心証を得るまで監査手続きを行い、場合によっては監査期日の延長も検討することが必要になってくるものと思われます。

④Ⅱ-11 貸倒引当金の見積方法
事例の概要 保証事業を営む会社は、事業規模の拡大に伴い、保証履行に伴う代位弁済により発生した債権の管理方法を変更するとともに、貸倒引当金の測定方法の見直しを行った。同時に貸倒引当金の測定方法変更の適用時期の検討を行った結果、遡及修正が必要であると判断し、過年度財務諸表の訂正を行った。
ポイント ○企業環境の変化により、貸倒引当金の見積方法に変更が必要となる場合もある。
○会計上の見積りを行う際に使用する測定方法が、状況に応じて適切であるかを評価する。
筆者コメント 貸倒引当金の見積方法のような見積り項目をいつの時点から変更するのかは難しい問題です。事象の変化を把握しそれがどの勘定科目に影響するかについて思いを及ぼすことが大切と思われます。

⑤Ⅵ-5 複数年にわたる訂正後の財務諸表に対する監査
事例の概要 会社は複数年にわたる過年度財務諸表の訂正を行った。監査人は、訂正監査において特定の会計年度を対象として監査手続を実施し、ほかの会計年度は、当該会計年度の監査手続の結果に依拠して過年度財務諸表に対する監査意見を表明した。
ポイント 複数年にわたる訂正後の財務諸表の監査(訂正監査)を行うときは、意見表明を行う会計年度ごとにリスク対応手続を立案する。
筆者コメント 財務諸表の訂正を行う自体イレギュラーなことであり、その要因となった特別な検討を必要とするリスクに対しては特に慎重な対応が必要と思われます。

まとめ

残念ながら企業不祥事は後を絶ちませんが、予防あるいは早期に発見して財務諸表の公表前に未然に防ぐことが重要です。
不祥事の手口は企業の特性や時代とともに変わりますが、この監査提言集のように類型化したパターンを知っておくことで、特にどのような項目に注意を払う必要があるかの目を養うことができると思われます。

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