確定申告を青色申告で行うメリットのひとつに、青色申告者には貸倒引当金の計上が認められていることが挙げられます。貸倒引当金は消耗品費や会議費のように期中に頻出する勘定科目では無いため、耳馴染みのない個人事業主の方も多くいらっしゃることでしょう。
今回は、個人の確定申告における貸倒引当金の計算方法についてご紹介致します。
この記事の目次
- 1.貸倒引当金とは?
- 2.貸倒引当金の算定の基礎となる貸金の評価方法
- 3.一括評価の対象となる貸金
- 4.一括評価の場合の貸倒引当金の計算方法
- 5.個別評価の対象となる貸金
- 6.個別評価の場合の貸倒引当金の計算方法
- 7.まとめ
1.貸倒引当金とは?
事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者で、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金等の貸金の貸倒れによる損失の見込額として、年末における貸金の帳簿価額の合計額の5.5%以下の金額を貸倒引当金勘定へ繰り入れたときは、その金額を必要経費として認めるというものです。ただし、金融業の場合は 3.3%になります。2.貸倒引当金の算定の基礎となる貸金の評価方法
貸金の帳簿価額の合計額の対して一律の割合を乗じて求める方法を一括評価といいます。一般的にはこの一括評価にて貸倒引当金を算定します。一方で、貸金のうち、貸倒れその他これに類する一定の事由による損失の見込額については、それぞれの事由に応じた限度額までを、貸倒引当金勘定に繰り入れることが出来ます。この方法を個別評価といいます。
個別評価によって必要経費に算入された金額の計算の基礎となった貸金は一括評価を行う帳簿価額の合計額から除かれます。
3.一括評価の対象となる貸金
一括評価の対象となる貸金と、債権は異なります。貸倒引当金の設定の対象となる貸金と、対象とならない貸金をご紹介致します。①一括評価の対象となる貸金
一括評価の対象となるものは、下記のもの等が挙げられます。・売掛金、貸付金
・未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃等又は貸付金の未収利子で、益金の額に算入されたもの
・他人のために立替払をした場合の立替金
・未収の損害賠償金で益金の額に算入されたもの
・保証債務を履行した場合の求償権
・売掛金、貸付金等の債権について取得した受取手形
②一括評価の対象とならない貸金
一括評価の対象とならないものは、下記のもの等が挙げられます。・預貯金及びその未収利子、公社債の未収利子、未収配当その他これらに類する債権
・保証金、敷金、預け金その他これらに類する債権
・手付金、前渡金等のように資産の取得の代価又は費用の支出に充てるものとして支出した金額
・前払給料、概算払旅費、前渡交際費等のように将来精算される費用の前払として、一時的に仮払金、立替金等として経理されている金額
・金融機関における他店為替貸借の決済取引に伴う未決済為替貸勘定の金額
・証券会社又は証券金融会社に対し、借株の担保として差し入れた信用取引に係る株式の売却代金に相当する金額
・雇用保険法、雇用対策法、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定に基づき交付を受ける給付金等の未収金
・仕入割戻しの未収金
4.一括評価の場合の貸倒引当金の計算方法
一括評価の場合の貸倒引当金は、年末における貸金の帳簿価額の合計額に対して5.5%又は3.3%を乗じて計算を行います。 例えば、小売業の期末売掛金残高が100万円である場合に、計上することが出来る貸倒引当金の限度額は、これに5.5%を乗じた5.5万円となります。5.個別評価の対象となる貸金
個別評価によって貸倒引当金を算定することは、一括評価によって貸倒引当金を算定することよりも多額の貸倒引当金を計上することが出来、課税所得の減額効果が高いことから、その対象となる貸金は限定をされています。下記の事由に該当をする貸金の金額であることが、個別評価の対象となる貸金として取り扱うことが出来る要件です。①貸金等の債務者について生じた下記の理由によりその弁済を猶予され、又は割賦により弁済される場合におけるその貸金等の額のうち、その事由が生じた年の翌年から5年以内に弁済されることとなっている金額以外の金額がある場合
・更生計画認可の決定
・再生計画認可の決定
・特別清算に係る協定の認可の決定
・法令の規定による整理手続きによらない関係者の協議決定で、債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの、行政機関、金融機関等の当事者間の協議により締結された契約で、その内容が債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負担整理を定めているもの
②貸金等の債務者について、債務超過の状態が相当期間継続しその営む事業に好転の見通しがない場合、災害や経済事情の急変等により多大な損害が生じたこと等の事由が生じていることにより、その貸金等の一部の金額について取り立て等の見込みが無いと認められる場合
③貸金等の債務者について、下記の事由が生じている場合
・更生手続開始の申立て
・再生手続開始の申立て
・破産手続開始の申立て
・特別清算開始の申立て
・手形交換所による取引停止処分
・電子記録債権法第2条第2項に規定汁電子債権記録機関による取引停止処分
④外国の政府、中央銀行又は地方公共団体に対する貸金等のうち、これらの者の長期に渡る債務の履行遅滞によりその経済的な価値が著しく減少し、かつ、その弁済を受けること著しく困難であると認められる事由が生じている場合
6.個別評価の場合の貸倒引当金の計算方法
個別評価の場合の貸倒引当金は、その個別評価の対象となる事由によって、計算方法が異なります。例えば、小売業の期末売掛金残高が100万円である場合に、その売掛金がある取引相手が被災をして一切の売掛金の回収が見込めない場合には、この100万円の全額が、計上することが出来る貸倒引当金の限度額となります。
①上記5の①に該当をする場合
貸金等の金額うち、その事由が生じた年の翌年から5年以内に弁済されることとなっている金額以外の金額が、貸倒引当金の金額になります。
②上記5の②に該当をする場合
貸金等の金額のうち、取り立て等の見込みがないと認められる金額が、貸倒引当金の金額になります。
③上記5の③に該当をする場合
貸金等の額から、その債務者から受け入れた金額があるために実質的に債権とみられない部分の金額、担保権の実行、金融機関又は保証機関による保証、債務の履行その他により取り立て等の見込みがあると認められる部分の金額を差し引き、差し引かれた後の金額に対して50%を乗じた金額が、貸倒引当金の金額になります。
④上記5の④に該当をする金額
貸金等の額から、外国の政府等から受け入れた金額があるために実質的に債権とみられない部分の金額、保証債務の履行その他により取り立て等の見込みがあると認められる部分の金額を差し引き、差し引かれた後の金額に対して50%を乗じた金額が、貸倒引当金の金額になります。
7.まとめ
貸倒引当金は、必ずしも計上をしなければならない経費ではないため、貸倒引当金の計算を行わないことは確定申告書の作成上、問題になることはありません。しかし、計上をすることの出来る経費は出来る限り漏らさずに、申告処理を行うことは、所得税の節税の基本です。貸倒引当金は支出を伴わないにも関わらず、計上をすることが出来る数少ない経費のひとつですし、期中にその知識が無くとも、確定申告書の作成の時点で未計上であることに気が付けば計上によって経費を増やすことが出来ます。青色申告者は貸倒引当金の計上を漏らさず行うようにしましょう。
貸倒引当金の計上方法や確定申告書の記載方法等、ご不明な点がございましたら、身近な専門家に相談されることをお勧め致します。
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