経営者必見 ! 平成29年度税制改正まとめ【事業承継税制編】
税務・財務


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前回の記事「経営者必見 ! 平成29年度税制改正要点まとめ 【攻めの投資への税制支援編】」に引き続き、「平成29年度税制改正の概要について(中小企業・小規模事業者関係)平成28年12月 中小企業庁」から、「事業承継を促す税制措置の見直し」を取り上げたいと思います。


事業承継を促す税制措置の見直し


事業承継とは会社を後継者に引き継ぐということですが、その際、会社の株式や事業用資産の引継ぎが上手くいかないと存続すべき会社が廃業に追い込まれるといった事態が起こりかねません。 経営者の高齢化が進む中、事業承継を迫られる中小企業は増加しており、これを税制面から支援する制度が事業承継税制(「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予制度」)です。

この制度は平成20年に成立した経営承継円滑化法に基づき、平成21年から事業承継税制として運用されています。しかし、国(経済産業大臣)の認定が必要であることと後継者が引き継いだ会社を継続するにあたっての要件が定められており、制度の使い勝手という点から利用者数(認定件数※)は低い水準にとどまっています。

これを改善するため数回にわたる法改正によって要件が緩和されており、今回の改正もその一環ということになります。
なお、今回の改正については平成29年1月1日より適用が開始されています。
※経済産業大臣の認定件数 相続 985件 贈与 627件(平成20年10月~平成28年9月末)


取引相場のない株式の評価方法に関する見直し


事業承継では株式や事業用資産を相続または贈与により後継者が取得します。同族経営のオーナー会社であることが多い中小企業の株式は「取引相場のない株式」であることから、株式の評価方法が相続税、贈与税に影響することになります。

相続税・贈与税を計算する場合の「取引相場のない株式」の株価の評価方法は株価を評価する中小企業の規模による区分により、類似業種比準方式と純資産価額方式の組合せで計算されます(大会社は類似業種比準方式、中会社、小会社の場合は類似業種比準方式と純資産価額方式の併用)。

今回の改正では会社の規模区分と類似業種比準方式の計算方法が変更されました。 類似業種比準方式は株式を評価する中小企業と類似する上場会社を選定し、それらの配当、利益、純資産を中小企業のそれと対比して計算する方法です。

その際、参考にした上場会社の株価の急激な変動が、評価する中小企業の株価に影響を与えてしまうことが起こりえます。 このような現状を踏まえ株式の評価を中小企業の実力を適切に反映したものに、より近づけようというのが改正の狙いです。

参照 : 中小企業庁p22、p23

今回の改正では会社の規模区分と類似業種比準方式の計算方法が変更された



会社の規模区分の基準変更について


会社の規模区分の基準変更については、 類似業種比準方式で計算された株価と純資産価額方式で計算されたそれぞれの株価を、総資産額、従業員数、売上により会社規模で区分された割合に応じて合算し株価を算定します。大会社、中会社、小会社の区分があり大会社ほど類似業種比準方式のウェイトが高まる割合が設定されています。

今回の改正で大会社、中会社の範囲が拡大されたことで中会社から大会社、小会社から中会社に適用基準が変わった場合に、類似業種比準方式で計算された株価のウェイトが高まることで株価が下がるケースが増加します。



類似業種比準方式の見直し


類似業種比準方式の見直しについて以下で詳しく解説します。

(1) 上場会社の株価に関して2年平均の追加
(上場会社の株価の、その月の平均、前月平均、前々月平均、前年平均に、2年平均を加えた5つのうちから最も低い株価を採用する)
(2) 上場会社の配当、利益、純資産は連結決算ベースに変更
(3) 配当、利益、純資産の比重

(3) の変更により、利益の出ている好業績の中小企業の場合は株価が低く抑えられることになり、自己資本の厚い中小企業の場合は従来よりも高く評価されるようになりました。



事業承継税制の見直し


「取引相場のない株式の評価方法見直し」は相続税・贈与税算定のベースを見直すというものですが、その算定された税額を軽減するというのが事業承継税制のポイントとなります。
相続税・贈与税の納税猶予制度は、後継者が取得した株式の2/3※に対する税額の、相続の場合は80%、贈与の場合は100%を猶予するというもので、相続税・贈与税の税負担が軽減されます。制度の適用を受けるためには国(経済産業大臣)の認定が必要であることと、後継者が会社を引き継いでから5年間の雇用維持を始めとする事業継続要件を満たす必要があります。

※相続・贈与前から後継者が既に保有していた議決権株式等を含め、発行済議決権株式総数の2/3に達するまでの部分に限る。


相続時精算課税制度との併用


贈与税の税率構造は相続税と比べて累進税率の割合が大きく、贈与税が高額になり生前贈与が行われにくいことが円滑な事業継承を妨げていました。

そこで登場したのが相続税・贈与税の納税猶予制度です。贈与税の納税猶予制度の適用を受けても、事業継続要件を満たせず認定が取り消された場合、突然高額な贈与税の負担を強いられるリスクがあることが制度自体の利用が進んでいない理由の一つとなっていましたが、今回の改正で相続時精算課税との併用が認められたことで認定が取り消された場合の税負担が大幅に軽減されました。

贈与税納税猶予取消時の負担軽減措置図
出典 :平成29年度税制改正の概要について


小規模事業者の雇用要件見直し


維持すべき従業員数に対し5年平均で8割を維持するという雇用要件があり、従業員数が4人以下の会社の場合、従業員が1人減った時点で直ちにこの要件からはずれてしまいます。
改正により「従業員数5人未満の企業については従業員が1人減った場合でも雇用要件を満たす」とされたことで人手不足の影響を受けやすい小規模企業も認定取り消しリスクが軽減されました。


セーフティネット規定


事業承継税制の適用期間中に災害、事故、取引先の倒産等により、資産への被害、従業員の減少、売上の大幅な減少があった場合に、事業承継税制の継続要件を免除するというものです。被害額や従業員数の減少、売上の減少が一定の割合を超えた場合に雇用要件や資産管理会社に該当しないことなどが免除されます。


まとめ


事業承継に迫られる中小企業は想像以上に多く、また忙しい経営者も事業継承に関する知識不足と当事者意識の低さから、後継者育成の失敗や相続紛争の発生、株式・事業用資産の分散による事業継続への支障など、いざその時を迎えた時に対策を講じておくべきだったと後悔するケースも多いと聞きます。

納税がからみ、場合によってはM&Aなど親族外への承継も視野に入る取り組みであることから、早い段階から専門家のアドバイスを受けておくことをおすすめいたします。SHARESには事業承継に強い専門家が多数在籍しております。お気軽にご相談ください。

参照 : SHARES HP

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